この記事の要点
都心から少し離れたエリアにある、1フロア約20坪・5フロアすべてが空室だった物件のリーシングを支援した事例です。今回は私が仲介会社として媒介を取得して募集したのではなく、貸主側の物件担当者を支援する立場で入りました。物件担当者の退職によって社内から事務所・店舗リーシングのノウハウがなくなった状態から、募集条件の整理、写真・資料の改善、約30社への仲介会社営業、新担当者の育成まで行い、6か月で4フロアが成約し、8か月で5フロアすべてが埋まりました。
今回の支援で目指したのは、空室を埋めることだけではありません。次に空室が出たときに、貸主側の担当者自身が募集を回せる状態を作ることまでを支援しました。
不動産仲介の支援というと、「仲介会社として物件を預かり、借主を探す」という仕事をイメージされることが多いと思います。ただ、私がこれまで行ってきた支援には、もう一つあります。それが、貸主側に入り、物件担当者としてリーシングを支援する仕事です。今回紹介するのは、その一例です。
相談を受けたのは、都心5区ではなく、都心から少し離れたエリアにある事務所・店舗物件でした。1フロアは約20坪。募集対象となっていた5フロアは、相談時点ですべて空室でした。
さらに、社内でこれまで物件を担当していた方が退職してしまい、事務所・店舗の募集に詳しい担当者がいなくなっていました。新たに担当してもらいたい社員の方はいましたが、「何から始めればよいのか」「仲介会社に何を伝えればよいのか」「内見時に何を聞かれるのか」を教えられる人が社内にいない状態でした。
そこで今回は、単に5フロアを埋めるのではなく、物件を満室へ近づけながら、新しい担当者が今後自分でリーシングを回せる状態を作るという2つを目的に支援を始めました。
この記事で紹介すること
- 5フロアすべて空室だった当初の募集状況
- 最初に既存の募集会社へ確認した理由
- 仲介会社が紹介しやすい募集条件への見直し
- 約30社の仲介会社へ新担当者と訪問した方法
- 一度営業して終わらせず、毎月物件情報を届けた理由
- 6か月で4フロア、8か月で満室になるまでの結果
- 新しい物件担当者が自分で募集を回せるようになるまで
相談時点では5フロアすべて空室だった
相談を受けた時点では、5フロアすべてが空室でした。地域の不動産会社へ募集自体は依頼されていましたが、ポータルサイトを確認すると、募集図面と少しぼやけた外観写真が掲載されている程度でした。室内がどのような雰囲気なのかも十分には分かりません。募集はされていても、他の物件と比較したときに目立ちにくい状態でした。
そして、もう一つ大きな問題がありました。社内の物件担当者が退職してしまい、貸主側で現在の募集状況を把握している人がいなかったことです。
- どのくらい問い合わせが来ているのか
- 何件内見があったのか
- 内見した企業からどのような反応があったのか
- なぜ5フロアとも空いているのか
こうしたことが分からない状態でした。
最初に行ったのは「募集条件の変更」ではなかった
支援に入って最初に行ったのは、賃料を下げたり、募集条件を変えたりすることではありませんでした。まず、新しい物件担当者と一緒に、それまで募集を任せていた地域の不動産会社へ挨拶に行きました。担当者変更の挨拶をすると同時に、これまでの募集状況を確認するためです。
- 問い合わせはどのくらいあったのか
- 内見は何件あったのか
- 検討した企業からどのような意見があったのか
- 何が原因で決まっていないと考えているのか
こうしたことを確認しようとしましたが、具体的な回答はほとんど返ってきませんでした。その不動産会社は管理業務を中心としており、リーシングについて細かく状況を把握する体制ではありませんでした。そこで、この会社だけに募集活動を任せた状態では、5フロアを早期に埋めるのは難しいと判断しました。
貸主側の立場だからこそ、募集方法を変えた
ここは、私が普段仲介会社を支援するときとは少し考え方が異なります。仲介会社が元付として物件を獲得するのであれば、貸主から募集をしっかり任せてもらい、募集方針を統一できる状態を作ることを勧めることがあります。
しかし、今回は違います。私は媒介を取得する不動産会社の立場ではなく、貸主側の物件担当者を支援する立場でした。目的は、どの不動産会社が媒介を取るかではありません。貸主にとって、どうすれば5フロアを早く成約へつなげられるかです。
それまで募集窓口が実質的に1社中心となっていたため、貸主側の了承を得たうえで既存の不動産会社とも調整し、複数の仲介会社へこちらから直接募集情報を届けられる体制へ切り替えました。立場が変われば、最適な募集方法も変わります。今回のように貸主側から物件全体を見る場合には、「どの仲介会社を使うか」ではなく、「どうすればこの物件を多くの借主候補へ届けられるか」を優先して考えました。
仲介会社へ営業する前に、物件を紹介しやすい状態に整えた
募集体制を変えた後、すぐに仲介会社へ営業したわけではありません。その前に、物件そのものを「紹介しやすい状態」に整えました。行ったのは主に次の4つです。
- 外観写真だけでなく室内写真を充実させる
- ビル前面へ「テナント募集」の看板を掲出する
- 敷金・保証金などの募集条件を見直す
- 仲介会社が顧客へ紹介しやすい物件資料を作成する
特に検討したのが、敷金・保証金です。当初は約20坪の区画に対して、敷金・保証金が12か月という条件でした。もちろん、この条件でも入居できる企業はあります。ただ、20坪前後の事務所や店舗を探している企業に12か月分の資金を求めると、検討できる企業はかなり限られてしまいます。
そこで今回は保証会社への加入を前提に、この物件について、用途によって条件を分けました。今回設定した目安は、次のとおりです。
- 飲食店:10か月
- 物販店舗:6〜8か月
- 事務所:3〜6か月
これは「とにかく条件を下げればよい」という考えではありません。飲食店と事務所では、貸主側が考えるリスクも違います。そのため、用途ごとのリスクと借主側の検討しやすさの両方を見ながら、今回の物件に合わせて条件を設定しました。実際、この条件は募集途中で変更していません。最初に募集条件を整理した後は、最後まで同じ条件で募集を続けました。
用途によって敷金・保証金の考え方を変える視点は、仲介会社が媒介を取得する場面でも使っています。 店舗物件の媒介を任せてもらうには|賃料査定とターゲット提案で貸主の信頼を得る方法 でも紹介しています。
約30社の事務所専門仲介会社を新しい担当者と回った
物件資料や募集条件を整えた後、次に行ったのが仲介会社への営業です。私がこれまで事務所仲介をしてきた中で接点のあった、事務所仲介を中心とする会社約30社を新しい担当者と一緒に訪問しました。訪問時には、単に物件資料を置いて帰るのではなく、次のようなことを行いました。
- 物件資料を渡して物件の特徴を説明する
- どのような企業に紹介してほしいのかを伝える
- 仲介会社から物件や募集条件への意見を聞く
- 新しい担当者に挨拶や物件説明の方法を覚えてもらう
今回、私が一人で営業してしまえば、物件情報を仲介会社へ伝えること自体はできます。しかし、それでは新しい担当者に何も残りません。そのため、できるだけ担当者にも一緒に訪問してもらい、「仲介会社へどう説明するのか」「どんなことを聞かれるのか」「物件について何を理解しておく必要があるのか」を実際の営業を通じて覚えてもらいました。
その場で案件がなくても、仲介会社のHPへ掲載してもらう
約30社を訪問する際、特に重視したことがあります。それが、仲介会社の自社ホームページへ物件を掲載してもらうことです。訪問した日に、その仲介会社がちょうど20坪前後の事務所を探している顧客を持っているとは限りません。「今は紹介できる顧客はいません」と言われることもあります。
しかし、それで営業を終わらせてしまうと、その日の案件にしかアプローチできません。そこで、室内写真などもこちらから提供し、自社ホームページへ物件を掲載してもらうようお願いしました。そうすれば、訪問時には顧客がいなくても、数週間後や数か月後に、「このエリアで20坪前後を探している」という問い合わせが入った際、候補として紹介してもらえる可能性があります。
仲介会社営業は、今持っている案件を紹介してもらうためだけの営業ではありません。次に反響が入ったときに、「そういえば、あの物件があった」と思い出してもらえる状態を作ることも大切です。
一度30社を回って終わりにはしなかった
仲介会社への訪問後、賃料や募集条件は変更していません。その代わり、続けたのが定期的な情報提供です。1か月ごとに空室一覧をメールで送り、次のようなことを伝え続けました。
- 現在どのフロアが募集中なのか
- どの区画が成約したのか
- 現在の空室状況はどうなっているのか
仲介会社のホームページも確認し、物件情報が掲載されていなければ、改めて掲載をお願いしました。また、最初に訪問した約30社以外でも、物件を紹介してくれたり、案内してくれたりした仲介会社には、新たに写真や空室情報を渡し、そこからも継続して連絡を取るようにしました。
物件募集では、一度資料を渡して終わりにすると、時間が経つほど仲介会社の中で存在感が薄れていきます。新しい物件は次々に出てきます。だからこそ、物件を忘れられない状態を作ることを意識して情報を届け続けました。
最初の成約で見えた、募集情報が十分に届いていない可能性
最初に決まったのは1階の飲食店でした。この案件は、地場の別の不動産会社から、「この物件が募集されていることを知らなかった」と連絡が来たことがきっかけです。
この成約を通じて、少なくとも一部の仲介会社には募集情報が十分に届いていなかったことが分かりました。5フロアが空室だった原因を一つに絞ることはできませんが、物件そのものの条件だけでなく、仲介会社への情報発信にも改善の余地があったと考えました。
その後、同じ時期に3階・4階の物販店舗が決まりました。続いて2階の飲食店が成約しました。ここまでで、支援開始から約6か月です。5フロア中4フロアが成約しました。そして最後に5階の事務所が決まり、支援開始から約8か月で5フロアすべてが埋まりました。
- 1階:飲食店
- 2階:飲食店
- 3階:物販店舗
- 4階:物販店舗
- 5階:事務所
最初の1階を除き、その他の成約は、私と新しい担当者で訪問した仲介会社からの紹介でした。
条件を下げ続けたのではなく、情報を届け続けた
今回の結果で、一つ特徴的だったのが、募集開始後に条件を何度も変更したわけではないことです。最初に募集条件を整理した後は、途中で変更していません。それでも、6か月で4フロア、8か月で満室まで進みました。今回行ったのは、次のような流れです。
募集条件を整理する → 写真・資料・看板を整える → 約30社へ直接物件を紹介する → 仲介会社のHPへ掲載してもらう → 毎月空室情報を届ける → 紹介してくれた仲介会社とも関係を作る
空室が長いと、「賃料を下げた方がよいのではないか」「もっと条件を緩くした方がよいのではないか」と考えることがあります。もちろん、相場と大きくずれているのであれば条件の見直しが必要です。募集情報が十分に届いていないことが、空室が長期化する要因の一つになっている場合もあります。その場合は、条件を下げる前に、募集の仕方そのものを見直した方がよいことがあります。
もう一つの成果は、新しい物件担当者が育ったこと
今回の支援では、満室にすることだけを目標にはしていませんでした。もう一つの目的が、新しい物件担当者が、次回空室が出たときに自分で募集を進められるようになることです。
最初に担当者が苦労したのは、日々仲介会社から入る質問や、内見時に借主から聞かれる質問への対応でした。物件を担当した経験がなければ、「この業種は入居できますか」「営業時間は何時までですか」「看板はどこまで出せますか」「内装工事はいつできますか」「設備は何がありますか」といった質問にも、その場で答えるのは簡単ではありません。
そこで、事前に想定される質問をまとめた質問集を作りました。さらに、実際の内見には私も立ち会い、「どんな質問が出るのか」「どのように回答するのか」を実際に見てもらいました。今回のケースでは、4〜5件ほど案内を経験したところで、この担当者は多くの質問に自分で回答できるようになり、物件の特徴や注意点についても、自分の言葉で説明できるようになっていきました。
最終的には、次の流れを理解してもらうことができました。
空室が出る → 募集条件を整理する → 仲介会社へ物件を周知する → 定期的に情報を送る → 問い合わせに対応する → 内見する → 成約へ進める
私が支援したのは「仲介会社」ではなく「貸主側」だった
今回の事例で、私が特にお伝えしたいのはここです。私は普段、不動産会社の賃貸仲介立ち上げや、事務所・店舗仲介の支援を行っています。ただ、支援できるのは仲介会社だけではありません。今回のように、貸主側の物件担当者として、リーシング全体を見ながら支援することもできます。
仲介会社側にいると、「どうやって媒介を獲得するか」「どうやって借主を紹介するか」という視点になります。一方、貸主側に立つと、「どの仲介会社へ情報を届けるか」「どの条件なら市場で紹介しやすいか」「物件情報は十分に伝わっているか」「社内の担当者が今後自分で回せるか」という視点が必要になります。
私は事務所仲介を長く経験してきたため、仲介会社が、どんな物件なら紹介しやすいのか、どんな資料があると顧客へ提案しやすいのか、何が分からないと案内を避けたくなるのかも分かります。その経験を貸主側から活用したのが、今回の支援でした。
貸主側のリーシング支援についてよくある質問
空室が多い場合、まず賃料を下げた方がよいですか?
必ずしもそうとは限りません。相場と募集条件が大きくずれている場合は見直しが必要ですが、今回の事例では、募集情報が仲介会社へ十分に届いていないことも大きな課題でした。まず現在の募集状況を確認し、条件・情報の見せ方・仲介会社への周知方法を整理してから判断した方がよいと思います。
仲介会社へ一度物件資料を配れば十分ではありませんか?
一度だけでは、時間の経過とともに物件を忘れられてしまうことがあります。今回の事例では、1か月ごとに空室情報を送り、ホームページへの掲載状況も確認しました。「次に顧客から問い合わせが来たときに思い出してもらえる状態」を作ることを意識しています。
貸主側に物件に詳しい担当者がいなくても募集できますか?
募集そのものはできますが、仲介会社からの質問や内見対応、条件調整などを考えると、物件について説明できる担当者がいた方が進めやすくなります。今回の支援では、質問集を作り、実際の内見に一緒に立ち会うことで、新しい担当者に覚えてもらいました。
仲介会社への営業も一緒に行ってもらえますか?
支援内容によりますが、今回の事例では新しい物件担当者と一緒に約30社の仲介会社を訪問しました。私だけが営業するのではなく、今後担当者自身で募集を回せるようにすることも目的としていました。
満室になった後もリーシング体制を作る必要がありますか?
私は必要だと考えています。テナントは将来退去する可能性があります。そのときに毎回ゼロから募集方法を考えるのではなく、仲介会社との関係、物件資料、質問への回答方法などを社内に残しておけば、次の空室募集を始めやすくなります。
8か月で満室になったことより、次の空室を自社で回せるようになったことが大きい
今回の支援では、5フロアすべて空室だった状態から、6か月で4フロア成約、8か月で満室となりました。もちろん、満室になったことは一つの成果です。ただ、私がそれ以上に大切だと思っているのは、リーシングの進め方が貸主側に残ったことです。
担当者が退職するたびに募集方法が分からなくなってしまう状態では、次に空室が出たときも同じことが起こります。だからこそ今回、次の項目まで一緒に進めました。
- 募集状況の確認方法
- 募集条件の考え方
- 写真や資料の作り方
- 仲介会社への営業方法
- 定期的な情報提供
- 問い合わせへの回答
- 内見対応
不動産賃貸仲介 伴走支援室 では、不動産会社の仲介事業立ち上げだけでなく、次のような相談についても、物件の状況を確認しながら支援しています。
- 貸主側で物件担当者が退職してしまった
- 事務所・店舗のリーシングを分かる社員がいない
- 管理会社へ募集を任せているが、現在の募集状況が分からない
- 新しい担当者へリーシングを教えられる人がいない
単に空室を埋めるだけではなく、今後その物件を社内で運営していくことまで考え、募集体制を一緒に作ることも可能です。
貸主側でリーシング体制を立て直したい方へ
「物件担当者が退職し、募集状況が分からなくなっている」
「管理会社に任せているが、空室が長期化している」
「新しい担当者にリーシングを教える体制がない」
という方は、物件の状況をお聞かせください。初回のご相談は無料です。

