事業用賃貸借契約書で確認すべきポイント 店舗・オフィス仲介で見落としやすい項目

この記事の要点

店舗・オフィスの賃貸借契約では、賃料や契約期間だけを確認していても十分ではありません。特に確認しておきたいのが、引渡し時の状態、設備・残置物の扱い、原状回復、内装工事の条件です。店舗の場合はさらに、用途・許認可、営業時間、看板についても契約前に整理しておく必要があります。

私が事業用仲介を行う際は、貸主と借主で決めた内容を口頭やメールだけで終わらせず、契約書、特約、別紙、写真などに残すことを重視しています。契約時には問題にならなかった内容が、数年後の退去時にトラブルになることもあるからです。

店舗やオフィスの賃貸借契約では、「貸主と借主で話がついているから大丈夫」「メールにも履歴が残っている」と思って、そのまま契約を進めてしまうことがあります。しかし、事業用物件は入居期間が長くなることもあり、契約した当時の担当者が退職していることも珍しくありません。

数年後に設備が故障したり、退去することになったりしたとき、「当時は貸主が直すと聞いていた」「そこまで原状回復するとは聞いていない」「この看板は残してよいと言われた」と、貸主と借主の認識が食い違うことがあります。

私は2015年から不動産仲介に携わり、事務所・店舗を中心とした賃貸仲介を経験してきました。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。 その中で感じるのは、事業用賃貸借契約では、契約条件を確認するだけでなく、後から第三者が読んでも分かる状態まで書面に残しておくことが大切だということです。

店舗仲介で契約前に確認しておきたいことの全体像は、 店舗仲介で気をつけたいこと|契約前の確認事項と未経験で始めるリスク でも紹介しています。この記事では、その中でも契約書・特約・別紙への残し方という観点から、店舗・オフィス仲介で私が契約前に特に確認している項目を紹介します。

この記事で紹介すること

  1. 引渡し状態と設備・残置物の確認
  2. 原状回復をどこまで具体的に決めるか
  3. 内装工事ができる時間の確認
  4. 店舗で追加確認したい用途・営業時間・看板
  5. 決めた内容を契約書・別紙・写真へ残す理由

引渡し状態と設備・残置物は契約前に整理する

店舗・オフィスの契約で最初に確認したいのが、どのような状態で物件を引き渡すのかです。特に確認することが多いのは、次のような設備です。

  • エアコン
  • 照明
  • トイレ
  • 給湯設備
  • 造作
  • 什器
  • 前のテナントが残していった設備

単に「残っている設備」を確認するだけではありません。一つひとつについて、貸主の設備として引き渡すのか、残置物として引き渡すのかを整理しておく必要があります。

例えばエアコンが設置されていても、それが貸主設備なのか、前テナントが残していった残置物なのかによって、故障したときの考え方が変わります。借主からすれば、「最初から付いていたのだから、壊れたら貸主が直してくれるだろう」と思っているかもしれません。一方、貸主は、「前のテナントが置いていっただけなので、修理まではしない」と考えているかもしれません。この認識が合っていないまま契約すると、故障したときに初めて問題になります。

そのため契約前に、次のような内容まで確認します。

  • 何を残して引き渡すのか
  • 設備なのか残置物なのか
  • 故障時の修理負担をどうするのか
  • 使用できなくなった場合に撤去できるのか
  • 退去時に残すのか撤去するのか

特に居抜き店舗の場合は、設備や造作が多いため、文章だけでは分かりにくくなることがあります。私の場合は、写真を撮り、「この設備は残置物」「これは貸主設備」と分かるように、写真と文章を組み合わせて残すこともあります。

設備と残置物の区別があいまいなまま契約が進んでしまった具体的なケースは、 住宅仲介をしながら店舗の相談を受けたときに気をつけたいこと|確認すべき7項目 でも紹介しています。

原状回復は「元に戻す」だけでは分からない

私が事業用賃貸借契約で特に注意しているのが、原状回復の内容です。退去時に借主から、「こんなところまで直さないといけないんですか?」と連絡を受けることがあります。原状回復について契約時に十分な確認をしていないと、退去時になって初めて貸主と借主の認識の違いが表面化します。

「原状回復する」「入居時の状態へ戻す」だけでは、具体的にどの状態を指しているのか分からないことがあります。例えば事務所でも、次のような内容を確認しておく必要があります。

  • 床をどこまで戻すのか
  • 壁紙は張り替えるのか
  • 天井はどこまで復旧するのか
  • 間仕切りは撤去するのか
  • 借主が追加した電気設備は撤去するのか
  • 看板やサインは撤去するのか

店舗ではさらに複雑です。スケルトン返しなのか、居抜き状態で返却できるのか、借主が設置した設備をすべて撤去するのかなどによって、退去費用は大きく変わります。

私は原状回復要項を別紙で作ることが多い

事務所の場合、私はほぼ必ず「原状回復要項」を別紙として作成します。契約書本文に原状回復義務が書かれていても、それだけでは具体的な工事内容まで分からないことがあるからです。床、壁、天井、設備などについて、退去時にどの状態まで戻すのかを別紙で整理します。

一方、居抜き店舗の場合は、写真を使用して設備や残置物を整理します。契約開始時点の状態を写真で残しておけば、数年後に担当者が変わっていても、「契約当時はどういう状態だったのか」を確認しやすくなります。

原状回復は退去するときの問題ですが、決めるのは入居するときです。ここを曖昧にしたまま契約しないことが、後のトラブルを減らすことにつながります。

内装工事は「いつでもできる」とは限らない

事務所・店舗ともに見落とされやすいのが、内装工事ができる時間です。借主からすると、「自分たちが借りた区画だから、好きな時間に工事できるだろう」と思っていることがあります。しかし実際には、そのビルにどのようなテナントが入居しているかによって工事可能時間は変わります。

例えば、2階へ入居する場合を考えてみます。1階が飲食店で昼営業をしているのであれば、営業中に大きな音や振動が発生する工事は難しいかもしれません。1階が物販店舗であれば、営業中の工事を避け、閉店後に工事するよう求められる可能性もあります。3階に事務所が入っていたり、同じフロアに複数の会社が入居していたりすれば、その会社の営業時間も考える必要があります。

つまり、契約する区画だけを見ても工事可能時間は判断できません。私は内装工事を予定している場合、次のような内容を確認します。

  • 上下階にどのようなテナントがいるか
  • 同じフロアにどのような会社がいるか
  • 音や振動が出る工事は何時から何時まで可能か
  • 夜間や土日祝日の工事ができるか
  • 搬入時間に制限があるか

工事時間の制限が強いビルでは、1日に作業できる時間が短くなるため、内装工事の期間が想定以上に延びることもあります。開業日や移転日を先に決めている借主にとっては、大きな問題です。そのため、工事条件は契約後ではなく、契約前に確認しておきたい項目です。

店舗では用途・許認可、営業時間、看板まで確認する

店舗物件の場合は、事務所で確認する内容に加えて、さらに確認する項目が増えます。私が特に確認しているのが、用途・許認可、営業時間、看板の3つです。

「前も飲食店だったから大丈夫」とは考えない

飲食店など、消防署や保健所への確認が必要になる業種では、私は借主の担当者や内装会社に、契約前の段階で営業の可否や必要な工事内容について事前相談をしてもらうようにしています。正式な許可や届出の手続きは、物件確定後の図面や設備内容に基づいて、契約後に進めることが多くなります。特に注意したいのが、「前のテナントも飲食店だったから、今回も問題ないだろう」という判断です。

前の店舗と今回の店舗では、次のような点が異なる可能性があります。

  • 内装
  • 厨房設備
  • 火気の使用状況
  • 客席数
  • レイアウト

そのため、以前同じ業種が営業していたという理由だけで判断することはできません。確認した結果、借主が予定していなかった追加工事が必要になることもあります。契約後にそれが判明すると、工事費だけでなく開業スケジュールにも影響します。だからこそ、営業の可否や必要な工事内容についての事前相談だけでも、契約前に済ませておくことが大切です。

用途変更や消防法の確認が関わる事案については、 事業用物件の説明義務はどこまで負うか|管理規約・検査済証・消防法の確認を怠らないために でも詳しく紹介しています。

営業時間は貸主の了承だけでは判断しない

店舗では営業時間についても確認します。主に見るのは、次のような内容です。

  • ビル自体の開館時間
  • 深夜営業が可能か
  • 管理規約や使用細則に制限がないか
  • 周辺テナントや住居への影響
  • 過去に騒音などのクレームがなかったか

特に注意したいのが、マンションの1階にある店舗です。貸主本人が、「深夜まで営業しても大丈夫です」と言っていても、マンションの管理規約や使用細則で営業時間が制限されている可能性があります。そのため、貸主への確認だけで終わらせず、建物全体のルールも確認します。

また、コンビニ跡地のような物件では、「以前、深夜まで看板を点灯して近隣からクレームがなかったか」といった過去の運用について確認することもあります。借主が深夜営業を前提に事業計画を作っているのに、契約後になって営業時間を制限されれば、事業そのものに影響します。営業時間は契約条件の一つとして、事前に確認しておいた方がよい内容です。

看板は「設置してよいか」だけでは足りない

店舗では、看板についても契約前に整理します。例えば、次のような内容です。

  • どこに看板を設置できるのか
  • サイズに制限があるのか
  • デザインの承認が必要か
  • 共用部へ設置できるのか
  • 既存看板を撤去するのは誰か
  • 看板照明を何時まで点灯できるのか
  • 退去時にどこまで原状回復するのか
  • 既存看板設備が故障した場合は誰が負担するのか

「看板設置可」とだけ書いてあっても、借主が希望している看板を設置できるとは限りません。また、貸主と借主で話し合って決めたとしても、その内容が契約書に残っていなければ、数年後に問題になることがあります。そのため、看板について決めた内容も、特約などへ反映するようにしています。

確認しただけで終わらせず、契約書へ反映する

今回紹介した内容に共通するのは、確認しただけでは十分ではないということです。仲介会社が貸主へ確認し、借主へ伝える。借主から希望を聞き、貸主が了承する。ここまで進んでも、それが担当者同士のメールや口頭でのやり取りにしか残っていなければ、将来問題になる可能性があります。

例えば5年後に退去するとします。その頃には、貸主側の担当者も借主側の担当者も退職しているかもしれません。その状態で、「当時、この設備は貸主が直すと言っていた」「原状回復はここまででいいと聞いていた」「看板はそのまま残してよいと言われた」という話になっても、当時の事情を知る人がいないことがあります。こうなると、契約内容ではなく、「言った」「聞いていない」という話になりやすくなります。

確認する → 貸主と借主で決める → 契約書・特約・別紙・写真へ残す

だから私は、ここまでを意識しています。後から契約に関わっていなかった人が読んでも、「このときはこういう条件で契約したのだな」と分かる状態にしておくことが大切です。

事業用賃貸借契約についてよくある質問

事業用賃貸借契約では、設備と残置物を分けて書いた方がよいですか?

分けて整理した方が分かりやすいと思います。特にエアコン、照明、給湯設備、造作などは、故障時の修理負担にも関わるため、貸主設備なのか残置物なのかを契約前に確認しておくことをおすすめします。

原状回復は契約書に「原状回復する」と書くだけでは足りませんか?

物件によりますが、事業用物件では具体的な内容まで整理しておいた方がトラブルを防ぎやすくなります。私は事務所では原状回復要項を別紙で作成し、店舗では必要に応じて写真も使用します。

内装工事の時間は契約後に管理会社へ確認すればよいですか?

できれば契約前に確認した方がよいと思います。工事可能時間が短いと工期が延びることがあり、移転日や開業日に影響する可能性があるためです。

前のテナントも飲食店なら、同じように飲食店を営業できますか?

前のテナントが同業種だったという理由だけで判断しない方がよいです。今回の店舗の内装や設備、営業内容によって必要な対応が変わる可能性があるため、消防署や保健所など必要な窓口へ契約前に事前相談しておくことをおすすめします。正式な許可や届出は、契約後に図面や工事内容が確定してから進める場合もあります。

貸主とメールで合意していれば、契約書へ書かなくても大丈夫ですか?

重要な条件については、契約書や特約、別紙などへ反映しておいた方がよいと思います。契約期間が長くなると担当者が変わる可能性もあるため、後から契約内容を確認できる状態にしておくことが大切です。

事業用賃貸借契約は「契約書を作る前の確認」が重要

店舗・オフィスの賃貸借契約では、契約書のひな形を埋めるだけでは整理できない内容が多くあります。特に確認しておきたいのは、次の項目です。

  • 引渡し状態
  • 設備と残置物
  • 原状回復
  • 内装工事の条件
  • 用途・許認可
  • 営業時間
  • 看板

そして、これらは確認するだけではなく、貸主と借主で決めた内容を契約書や特約、別紙、写真へ落とし込む必要があります。私自身、事務所では原状回復要項を別紙で作成し、居抜き店舗では設備や残置物を写真と文章で残すことがあります。契約時に少し手間をかけておけば、数年後に担当者が変わっても、当時の契約内容を確認できます。

事業用仲介では、契約を成立させることだけではなく、契約後や退去時に問題が起こりにくい状態を作ることも仲介会社の役割の一つだと私は考えています。

不動産賃貸仲介 伴走支援室 では、店舗・オフィス仲介を始めたばかりの方に対して、物件探しや営業だけでなく、実際の案件に応じた契約条件や特約の整理についても相談を受けています。「事業用の契約書をどこまで確認すればよいか分からない」「店舗案件を受けたが、契約条件の整理に不安がある」という場合は、実際の案件内容を確認しながら、一緒に整理することも可能です。

事業用の契約条件整理に不安がある方へ

「事業用の契約書をどこまで確認すればよいか分からない」
「店舗案件を受けたが、契約条件の整理に不安がある」

という方は、実際の案件内容をお聞かせください。初回のご相談は無料です。

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この記事を書いた人

オフィス・テナント仲介を専門とする宅地建物取引士(業界歴10年以上)。開業・参入・展開の伴走支援を行っています。

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