この記事の要点
私が住宅仲介の方から受ける相談では、知人や既存顧客から店舗開業の相談を受けたことがきっかけになっているケースが少なくありません。 塾やネイルサロンなど、大がかりな内装工事が不要な業種でも、確認しておきたい事項は非常に多く、難易度は高めです。 設備や用途を確認しないまま契約を進めると、後々のトラブルで仲介会社自身が責任を問われることもあります。 店舗の相談を受けたら、設備・設備容量・業種制限・内装工事・看板・営業時間・建物用途の7項目から整理すると、確認漏れを見つけやすくなります。
住宅仲介がメインの方から、「知り合い経由で店舗の相談が来たのですが」という相談を受けることがあります。
私は2015年から不動産仲介に携わり、オフィス専門の仲介会社で事務所・店舗の仲介を数多く経験してきました。 現在は独立し、これから店舗仲介にも対応したい方への伴走支援を行っています。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。
住宅仲介から事務所・店舗仲介へ広げるメリットは 住宅仲介から事務所・店舗仲介へ広げるメリット で書きましたが、この記事では、実際に店舗の相談が来たとき、何を確認すればいいかを書きます。
この記事で紹介すること
- 住宅仲介に来る店舗相談は、なぜ難易度が高いのか
- 契約前に確認しておきたいこと
- 設備を確認しないまま進めるとどうなるか|裁判例
- 7項目を確認しても判断できないときは、一人で進めない
住宅仲介に来る店舗相談は、なぜ難易度が高いのか
住宅仲介の顧客からの紹介は、仕事のつながりだけに限りません。友人の紹介、友人の友人が店舗を開業する予定など、個人のつながりから相談が来ることも多く、その中心は店舗系の案件になりやすい印象があります。
塾やネイルサロンなど、大がかりな内装工事が必要ない業種であれば、比較的進めやすい部類かもしれません。
それでも、看板の掲出場所や営業時間の扱いなど、確認しておきたい事項は非常に多いのが店舗仲介の特徴です。住宅や事務所とは別の論点が絡むため、住宅仲介中心で動いてきた方にとっては、思っている以上に難易度が高くなります。
契約前に確認しておきたいこと
店舗の相談を受けたら、契約を進める前に、最低限次の内容を確認するようにしています。
- 設備が貸主設備か残置物か、現在使用できる状態か。空調が4台あるうち1台だけ残置物扱い、ウォシュレットは残置物扱いになっている、といった、同じ種類の設備でも扱いが分かれているケースをよく見ます。
- 電気・給排水・ガス・排気など、予定する営業に必要な設備容量があるか。私が扱った飲食店舗でも、「以前も飲食店だったから大丈夫」と考えていたものの、確認すると必要な電気やガスの容量が足りなかったケースがあります。容量不足で問題になった裁判例は 店舗仲介で気をつけたいこと|契約前の確認事項と未経験で始めるリスク で紹介しています。
- 管理規約や貸主側で、業種の制限がないか。マンション系の物件でサロンや整体を始めようとして、契約後に入居届を管理会社に提出した段階で、管理規約上できないと分かるケースがあります。
- 契約前に、顧客側で内装業者へ相談し、工事内容と費用を確認しているか。内装会社が現地調査なしの概算だけで費用を伝えていて、契約後に現地調査をしたら実際は1.5倍の費用がかかることが分かり、即解約になった例もあります。
- 看板を掲出できる場所と、デザインの制限。顧客が出せると思っていた場所に実際には掲出できないと、契約後のトラブルにつながります。どこにどんなデザインで掲出したいか、契約前に具体的に確認しておくのが一番です。
- 貸主や管理規約上、希望する営業時間で営業できるか。深夜営業を予定している場合は、必要な届出や許可も確認しているか。最初は23時までの予定でも、売上を伸ばすために後から深夜のBAR営業をしたいという話が出てくることもあります。最初の希望として出ていなくても、内見時などに将来の予定まで聞いておくと、後の問題を防げます。
- 建物用途が予定する事業に適しているか。用途変更が必要な場合、誰が手続きし、費用を負担するのか。就労支援事業や保育園など、建物用途が許認可に関わる事業では、登記簿だけで判断せず、確認済証や建築計画概要書などから建築確認上の用途を確認します。判断が難しい場合は、行政の建築担当部署や建築士にも確認しておく必要があります。用途変更の費用は高く、私がこれまで扱った案件では、用途変更が必要だと分かった後に、実際に貸主や借主が費用を負担して用途変更まで進めたケースはありません。
挙げていけばまだまだありますが、私は、店舗の相談を受けたときの最初の整理として、この7点を確認するようにしています。
設備を確認しないまま進めるとどうなるか|裁判例
設備や現況の確認を怠ると、貸主・借主だけでなく、仲介会社自身が責任を問われることがあります。
東京地裁令和4年2月1日判決(RETIO No.128)の事案では、借主が内見をせずに分譲マンションの一室を賃借しましたが、媒介業者は現況調査を行わないまま、フローリングであるとの誤った説明をし、隣室がゴミ屋敷状態であることも伝えていませんでした。
借主は入居直後に契約を解約し、媒介業者に損害賠償を求めて提訴。裁判所は、カーペット敷きの説明や隣室の状況について、宅地建物取引業法35条の「設備」の整備状況や、同法47条の建物の「環境」に関する事項に関わるとしたうえで、現況を調査すれば容易に確認できたと判断しました。そのうえで、契約上の調査・説明義務を十分に果たしていなかった媒介業者に不法行為責任を認め、賃料や弁護士費用など計30万円余りの賠償を認めています。
このケースは住宅の事例ですが、店舗仲介でも、設備や現況を確認しないまま説明することの危険性を考えるうえで参考になります。
店舗仲介の確認事項と、他の裁判例については 店舗仲介で気をつけたいこと|契約前の確認事項と未経験で始めるリスク に詳しくまとめています。
7項目を確認しても判断できないときは、一人で進めない
店舗案件では、物件を探す段階では問題がないように見えても、申込後に内装業者へ確認したところ設備容量が足りない、管理規約上予定していた営業ができない、と分かることがあります。
私が住宅仲介の方から相談を受ける場合も、「物件が見つからない」という相談だけでなく、申込後や契約前になって「この条件で契約して大丈夫でしょうか」と確認を受けるケースがあります。
店舗仲介の経験が少ないうちは、自分だけで判断できない事項が出てきた段階で、経験者や内装業者などに確認できる体制を作っておくほうが安全です。
実際に、住宅や事務所の経験だけで店舗案件を一人で対応し、トラブルに発展しかけた例は 賃貸仲介の開業でつまずきやすい4つの共通点 でも書きました。
なお、物件を送っても案内につながらない場合は 事務所仲介の物件提案で気をつけたいこと|案内につながらない本当の理由 で詳しく書いています。
住宅仲介から店舗の相談を受けたときによくある質問
住宅仲介の顧客から店舗の相談が来たら、受けてもいいですか?
確認事項を押さえられるなら、対応できる相談です。ただ、住宅・事務所とは別の論点が絡むため、難易度は高めです。経験者や外部に相談できる体制を作っておくことをおすすめします。
用途変更が必要かどうかは、誰に確認すればいいですか?
貸主・管理会社には、その業種での使用を認めてもらえるかを確認します。一方、建築基準法上の用途変更が必要かどうかは、建築計画概要書などを確認したうえで、行政の建築担当部署や建築士へ確認します。必要な場合は、誰が手続きを行い、費用を負担するのかも契約前に整理しておきます。
塾やネイルサロンのような業種でも、注意は必要ですか?
大がかりな内装工事が不要な業種でも、看板や営業時間など、確認しておきたい事項は多くあります。大がかりな工事がない業種でも、契約前に確認してから進めるようにしています。
契約後にトラブルになったら、どうすればいいですか?
確認事項を顧客自身も見落としたまま契約に進んでいることが多いです。問題が分かった時点で早めに経験者や外部へ相談することをおすすめします。
一人で対応するのは危険ですか?
店舗仲介は、住宅・事務所とは別の論点が絡みます。経験が浅いうちに一人で抱えると、見落としがそのままトラブルにつながりやすくなります。
店舗の相談は、難易度の高さを知ったうえで
住宅仲介の顧客からの紹介は、店舗系の相談につながりやすいです。塾やネイルサロンのような業種でも、確認しておきたい事項は多く、難易度は高めだと考えておいてください。
設備や用途の確認を怠ると、顧客だけでなく、仲介会社自身が責任を問われることもあります。どこまで確認すれば仲介業者としての責任を果たしたことになるのかは、 事業用物件の説明義務はどこまで負うか|管理規約・検査済証・消防法の確認を怠らないために で、実際の裁判例をもとに整理しています。
住宅仲介と事務所・店舗仲介で、そもそも何が違うのかは 住宅仲介と事務所・店舗仲介は何が違う?現場で感じる6つの違い でも紹介しています。物件を探す前に確認しておきたい用途・予算・入居時期の整理方法は 事務所・店舗の物件を探す前に確認すること|用途・予算・入居時期・条件整理 にまとめています。店舗・オフィス仲介への参入方法として、加盟型サービスと個別コンサルのどちらが合うかは 店舗・オフィス仲介への参入は加盟型サービスと個別コンサルのどちらがいい?違いと選び方 で紹介しています。
気になる案件があれば、一人で抱え込まず、一度相談してみてください。
住宅仲介から店舗の相談を受けて迷っている方へ
「知り合い経由で店舗の相談が来たが、進め方が分からない」 「確認すべきことに漏れがないか不安」 という方は、現在の状況をお聞かせください。 初回のご相談は無料です。

