住宅仲介と事務所・店舗仲介は何が違う?現場で感じる6つの違い

この記事の要点

住宅仲介と事務所・店舗仲介は、物件を紹介して案内し、申込みから契約へ進むという大きな流れは共通しています。一方で、実際に仕事をしてみると、相手にする人、社内の意思決定、案内前の準備、移動時間の使い方、物件ごとの確認事項、申込み後の審査対応などに違いがあります。住宅仲介の経験が活かせる部分はありますが、「住宅仲介ができるから、そのまま事務所・店舗仲介もできる」と考えるより、別の分野として一つずつ判断の引き出しを増やしていく方がよいと考えています。

住宅仲介の経験がある方から、「事務所や店舗の仲介も、住宅仲介の延長でできますか?」と聞かれることがあります。

物件を探して、お客様を案内し、申込みをもらい、契約へ進めるという基本的な流れだけを見れば、大きく違わないようにも見えます。ただ、実際に事務所や店舗の案件を担当すると、住宅とは違うところで判断に迷う場面が出てきます。

私は2015年から不動産仲介に携わり、オフィス専門の仲介会社で事務所・店舗仲介を中心に経験してきました。 現在は独立し、賃貸仲介へ参入する会社の立ち上げや案件の進め方を支援しています。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。

住宅仲介から事務所・店舗仲介へ広げるメリットについては 住宅仲介から事務所・店舗仲介へ広げるメリット で紹介しました。この記事では、実際に長く事務所仲介を担当してきた立場から、住宅仲介と比べて仕事の進め方のどこが違うのかを紹介します。

この記事で紹介すること

  1. 相手にする人だけでなく、意思決定の仕組みが違う
  2. 案内前の段取りと時間管理が違う
  3. 移動時間がヒアリングと条件整理の時間になる
  4. 業種によって物件で確認する内容が変わる
  5. 申込み後は決算書や事業の背景まで確認する
  6. 数件経験して終わりではなく、判断の引き出しを増やしていく

相手にする人だけでなく、意思決定の仕組みが違う

事務所・店舗仲介では、会社の代表者や役員など、経営に近い立場の方と直接やり取りすることがあります。そのため、メールの返信ひとつ、案内時の会話ひとつでも、事前準備をしてから臨むようにしています。

私の場合、案内前には少なくとも会社のホームページを確認し、どのような事業をしている会社なのか、どの地域で事業を展開しているのか、何人くらいの会社なのか、今回の移転や出店と関係しそうな事業があるかといったことを把握してから会うようにしています。

すべてを詳しく理解する必要はありません。ただ、何も調べずに「どういう会社なんですか?」と聞くのと、「ホームページを拝見すると〇〇の事業が中心ですが、今回はその部署の増員に伴う移転ですか?」と聞くのでは、会話の入り方が変わります。

誰が最終的に決めるのかも確認する

住宅仲介との違いとして、会社では物件を見ている人と最終的に判断する人が違うケースがあります。例えば、担当者が内見していても、上司、総務責任者、代表者、役員会、親会社などの承認が必要になる場合があります。

案内している担当者が非常に気に入っていたとしても、それだけで契約になるとは限りません。社内へ持ち帰ったあと、「賃料が予算を超えている」「採用面を考えると駅から遠い」「内装費を含めると移転費用が大きい」と別の理由で検討から外れることもあります。

そのため私は、「今回の物件は、最終的にはどなたが決定されますか?」「社内ではどのような項目を比較されますか?」といったことも早めに確認します。事務所・店舗仲介では、目の前のお客様だけではなく、その先にいる意思決定者まで想定して提案する必要があります。

案内前の段取りと時間管理が違う

住宅仲介では、現地のキーボックスなどで鍵を取り出し、そのまま内見できる物件もあります。私が扱ってきた事務所・店舗では、住宅のように現地だけで完結せず、管理会社への事前連絡や鍵の手配が必要なケースが多くありました。

物件によって、管理会社へ鍵を取りに行く、管理人室で借りる、貸主や管理会社が立ち会う、案内可能な曜日や時間が決まっているなど、対応方法が違います。3件、4件と案内する場合には、それぞれの条件を確認したうえで順番を組みます。

案内順は距離だけでは決めない

単純に地図上で近い順に回ればよいとは限りません。例えば、A物件はいつでも内見可能、B物件は14時に管理会社立会い、C物件は管理会社へ鍵を取りに行く必要がある、という状況であれば、B物件の時間を基準にして全体のルートを組みます。

1件目の案内が長引けば、次の管理会社を待たせることもあります。逆に、時間を詰めすぎると、お客様が物件について質問したいのに、「次の予定があるので移動しましょう」となってしまいます。

私は案内件数が多いほど、物件そのものを見る時間よりも、その前の段取りに時間を使います。内見当日に慌てないためには、鍵の手配、案内可能時間、立会いの有無、移動時間、お客様との待ち合わせ、管理会社への返却時間まで事前に確認しておく必要があります。

移動時間がヒアリングと条件整理の時間になる

事務所・店舗の案内では、物件から物件へ移動する時間が発生します。私は、この移動時間を単なる移動とは考えていません。お客様の会社について聞いたり、今見た物件の感想を整理したり、次の提案条件を確認したりする時間として使っています。

例えば1件目を見たあとで、「今の物件で一番良かったところはどこでしたか?」「逆に、気になったところはありますか?」と確認します。2件、3件と見たあとは、「現時点ではどの物件が一番近いですか?」「1件目と2件目を比べると、何が決め手になっていますか?」と聞きます。こうした会話を挟むことで、お客様が何を優先しているのかが少しずつ見えてきます。

会社について聞く時間にも使う

事前に会社について調べていれば、移動時間の会話も広げやすくなります。例えば、「ホームページでは〇〇事業もされていますが、今回の移転ではこの部門も一緒に入る予定ですか?」「今後さらに採用される予定はありますか?」と聞けば、必要な面積や立地の考え方が変わる可能性があります。

事前に何も調べていないと、どうしても「このあたりはよく来ますか?」といった雑談だけで移動時間が終わってしまいます。雑談が悪いわけではありませんが、せっかくお客様と長く話せる時間なので、私はできる限り次の提案につながる情報を聞くようにしています。

事務所仲介の内見については、 事務所仲介の内見で気をつけたいこと|案内当日の準備と信頼を得る対応 で、当日の進め方をもう少し詳しく紹介しています。

業種によって物件で確認する内容が変わる

住宅であれば、お客様によって重視する条件は違っても、物件で確認する基本的な項目はある程度共通しています。一方、事務所・店舗では、借りる会社や業種によって確認する内容そのものが変わります。

事務所であれば、空調、電気容量、セキュリティ、使用可能時間、OAフロア、レイアウトの組みやすさなどを見ることがあります。店舗であれば、給排水、ガス、電気容量、排気やダクト、看板、営業時間、建物用途や管理規約など、さらに確認事項が増えます。

美容室と飲食店では必要な設備が違いますし、同じ事務所でも、一般的なオフィスと来店型の事業では物件に求める条件が変わります。そのため、「前のテナントも店舗だったから大丈夫だろう」と判断するのではなく、今回のお客様がどのように使うのかを聞いたうえで確認していきます。

分からないものを、その場で断定しない

事務所・店舗仲介では、仲介担当者だけでは判断できないこともあります。例えば建築、消防、内装工事、許認可などです。私は分からないことがあれば、その場で「大丈夫です」と答えるのではなく、「ここは管理会社へ確認します」「内装会社にも一度確認してもらいましょう」と分けて考えるようにしています。

店舗相談で確認している内容については、 住宅仲介をしながら店舗の相談を受けたときに気をつけたいこと|確認すべき7項目 で詳しく紹介しています。

住宅仲介から事務所・店舗仲介へ広げる場合、物件知識を増やすこと以上に、どの内容を誰に確認するかを判断できるようになることが大切だと感じています。

申込み後は決算書や事業の背景まで確認する

申込み後の審査対応も、住宅とは違いを感じる場面です。住宅仲介では、申込情報を管理会社や保証会社の審査へ回す流れが比較的定型化されていることがあります。一方、事務所・店舗では、借主の会社について貸主や管理会社から質問を受けることがあります。

例えば、「この会社は何をしている会社ですか?」「なぜ赤字なのですか?」「今回の店舗は何店舗目ですか?」「今後の売上はどう見込んでいるのですか?」といった内容です。このとき、申込書と決算書をそのまま転送しただけでは、会社の状況が十分に伝わらないことがあります。

数字だけでなく、背景も確認する

私は申込みを受けたら、必要に応じて、売上の推移、利益状況、現預金、設立年数、既存事業の内容、今回が新規出店なのか増店なのかなどを確認します。

例えば赤字であっても、新規事業への先行投資によるものなのか、業績そのものが悪化しているのかでは意味が違います。設立して間もない会社で決算実績が十分でなくても、代表者が同じ業種で長く事業をしてきたケースもあります。反対に、売上が大きくても、今回の出店計画に無理がないかを確認した方がよい場合もあります。

ここで仲介担当者が審査結果を決めるわけではありません。ただ、「どういう会社で、今回なぜこの物件を借りるのか」という背景を整理して伝えることで、申込書だけでは分からない情報を貸主や管理会社が判断材料として確認しやすくなります。私は決算書の数字そのものを見るだけではなく、その数字になっている理由まで借主へ聞くようにしています。

数件経験して終わりではなく、判断の引き出しを増やしていく

住宅仲介の経験がある方から、「事務所・店舗仲介は、何件くらいやれば慣れますか?」と聞かれることがあります。私は、件数だけで「もう慣れた」と言える仕事ではないと思っています。

事務所・店舗では、借りる業種、会社規模、決算内容、建物の仕様、貸主の考え方、管理会社の運用、工事内容、契約条件が案件ごとに違います。前回うまく進められた方法が、次の案件でもそのまま使えるとは限りません。

ただし、経験が増えても毎回ゼロから考えるという意味ではありません。案件を重ねることで、「この業種なら、先にここを確認した方がいい」「この会社規模なら、審査時にこの資料も用意した方がいい」「この物件なら、案内前に管理会社へこれを聞いておこう」という判断の引き出しは増えていきます。

事務所・店舗仲介で経験を積むというのは、単純に契約件数を増やすことよりも、こうした判断の引き出しを一つずつ増やしていくことだと考えています。

住宅仲介と事務所・店舗仲介の違いについてよくある質問

事務所・店舗仲介は、住宅仲介の延長でできますか?

住宅仲介で身につけた接客、物件提案、契約の流れなどが活きる部分はあります。一方で、法人の意思決定、案内前の調整、業種ごとの物件確認、審査時の会社説明など、別に覚える内容も多いため、私は別の分野として学ぶ意識を持った方がよいと考えています。

事務所・店舗仲介では、会社についてどこまで調べますか?

少なくともホームページなどで事業内容を確認し、今回の移転や出店と関係しそうな情報は把握するようにしています。すべてを理解するのではなく、案内時にもう一段深い質問ができる程度まで準備します。

事務所・店舗の内見は、住宅より準備に時間がかかりますか?

物件によりますが、管理会社への連絡、鍵の手配、立会い時間の調整などが必要になるケースがあります。複数物件を案内する場合は、物件ごとの案内方法を確認してからルートを組んでいます。

申込みを受けたら、決算書はどこまで確認しますか?

売上や利益だけを見るのではなく、必要に応じてその数字になっている背景も借主へ確認します。新規出店なのか増店なのか、赤字であれば何が理由なのかなど、貸主や管理会社へ会社の状況を説明できる状態にしておきます。

事務所・店舗仲介は何件くらい経験すれば一人でできるようになりますか?

一律に何件とは言えないと考えています。案件ごとに業種や物件条件が違うためです。経験を重ねながら、「この場合は何を確認するか」という判断の引き出しを増やしていくことが大切です。

住宅仲介とは別の仕事として、一つずつ判断の引き出しを増やす

住宅仲介と事務所・店舗仲介には、共通する仕事もあります。ただ、実際に案件を進めると、誰が意思決定するのか、案内をどう組み立てるのか、移動時間に何を聞くのか、業種ごとに何を確認するのか、申込み後に会社をどう説明するのか、といったところで違いが出てきます。

住宅仲介の経験があるからといって、すべてを最初からやり直す必要はありません。一方で、「賃貸仲介だから同じだろう」と考えて進めると、判断に迷う場面が出てきます。

私は、住宅仲介で身につけた経験を活かしながら、事務所・店舗仲介は別の分野として一つずつ判断の引き出しを増やしていくのがよいと考えています。

賃貸仲介の伴走支援 では、住宅仲介から事務所・店舗仲介へ広げたい会社に対して、案件の進め方や案内前の準備、物件確認、申込み後の対応なども一緒に整理しています。

事務所・店舗仲介へ広げたいものの、進め方に不安がある方へ

「住宅仲介の経験はあるが、事務所や店舗になると何を確認すればいいか分からない」 「実際に相談を受けたものの、この進め方でよいのか不安」 という方は、現在の状況をお聞かせください。 初回のご相談は無料です。

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この記事を書いた人

オフィス・テナント仲介を専門とする宅地建物取引士(業界歴10年以上)。開業・参入・展開の伴走支援を行っています。

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