この記事の要点
事務所移転を考えるときは、新しい物件の賃料や立地だけでなく、現在借りている事務所の契約内容を最初に確認するようにしています。解約予告が6か月、原状回復に2か月必要なケースであれば、現在の事務所を通常どおり使用できる期間は想像しているより短くなります。私は事務所移転の相談を受けた際、まず現在の賃貸借契約書を確認してもらい、解約予告、原状回復、違約金や費用負担、特約事項などを確認したうえで、物件探しから退去までのスケジュールを組むようにしています。
事務所移転の相談を受けると、「賃料はいくらまでにするか」「何坪くらい必要か」「どのエリアで探すか」といった、新しい事務所についての話から始まることが多くあります。もちろん、これらも必要な条件です。
ただ、私は2015年から事務所・店舗を中心に不動産仲介に携わる中で、事務所移転では新しい物件だけを見ていてはいけないと感じています。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。 確認しなければならないのが、現在借りている事務所の契約です。
- 解約予告は何か月前なのか
- 原状回復はどこまで必要なのか
- 工事期間はどの程度見込むのか
- 違約金や特約はないのか
こうした条件によって、物件探しを始める時期も、移転にかかる費用も変わります。今回は、事務所移転の相談を受けたときに、私が最初に確認している内容を紹介します。
物件を探す前に確認しておきたい内容全般については、 事務所・店舗の物件を探す前に確認すること|用途・予算・入居時期・条件整理 でも紹介しています。この記事では、その中でも事務所移転における「現在の事務所からの退去」という視点に絞って紹介します。
この記事で紹介すること
- 事務所移転で最初に現在の契約書を確認する理由
- 解約予告と原状回復から退去日を逆算する方法
- 新しい事務所の内装工事まで考えておく理由
- 新旧オフィスの賃料が重なる期間の考え方
- 新しい物件だけでなく移転全体で判断する考え方
事務所移転の相談を受けたら、まず現在の契約書を確認する
私が事務所移転の相談を受けた際、早い段階で確認してもらうのが、現在の事務所の賃貸借契約書です。相談者からすると、「まだ新しい物件も決まっていないのに、今の契約書を見る必要があるのですか」と感じるかもしれません。しかし、現在の契約条件を確認しなければ、いつまでに新しい事務所を決める必要があるのか判断できません。
私が主に確認しているのは、次の内容です。
- 解約予告期間
- 原状回復の内容
- 原状回復に必要と考えられる期間
- 違約金やその他の費用負担
- 特約事項
特に特約事項は必ず確認します。契約書の本文だけを見ていると、退去時に必要な手続きや費用について、重要な条件が特約に記載されていることがあるためです。
相談時には、まず一般的な例として、「仮に解約予告が6か月前だった場合、このような移転スケジュールになる可能性があります」と説明したうえで、実際の契約書ではどうなっているのかを確認します。解約予告が長いと、「それなら移転はまだ先でいいですね」と考える方もいます。しかし、実際に退去までの日程を組んでみると、思っているほど余裕がないケースがあります。
解約予告6か月でも、6か月間自由に使えるとは限らない
例えば、現在の事務所について、解約予告が6か月前だったとします。さらに、退去時の原状回復工事に約2か月必要だと仮定します。この場合、解約予告を出してから6か月間、通常どおり事務所を使い続けられるわけではありません。最後の約2か月を原状回復工事に充てるのであれば、実際にはその前までに社員や荷物を新しい事務所へ移しておく必要があります。
つまり単純化すると、6か月後に退去するためには、4か月後には現在の事務所から移転している必要がある、というスケジュールになります。もちろん、原状回復工事に必要な期間は、面積や工事内容、施工会社の状況などによって変わります。2か月という期間は、あくまで今回の説明のための例です。
ただ、重要なのは、解約日だけを見て移転スケジュールを考えないことです。解約日から原状回復期間を逆算し、その前に新しい事務所へ移れる状態を作る必要があります。
物件が決まってからも、内装工事と引越しの時間が必要になる
さらに考えなければならないのが、新しい事務所側の準備です。新しい物件が決まった瞬間に、翌日から働けるわけではありません。事務所によっては、次のようなことが必要になります。
- 内装工事
- 電気・通信工事
- オフィス家具の手配
- 引越し
- 各種住所変更
内装工事をするのであれば、施工会社との打合せや見積もり、工事期間も考えておかなければなりません。先ほどの例で、現在の事務所を4か月後までに出る必要があるとします。そこから新しい事務所の工事期間を逆算すると、「物件探しはもう少し後からでもいい」とは言いにくくなります。
そのため私は、具体的な退去スケジュールを組んだうえで、基本的には早めに物件探しを始めましょうとお伝えすることが多いです。急いで物件を決めるという意味ではありません。比較検討する時間を確保するためにも、早めに動いておくという考え方です。
「物件が決まってから解約予告を出す」とどうなるか
相談者の中には、「新しい事務所が決まっていない状態で解約予告を出すのは怖い」と考える方もいます。これは当然だと思います。そのため、新しい物件を決めてから現在の事務所の解約予告を出すケースもあります。
ただし、仮に新しい物件が決まった時点から6か月の解約予告期間が始まるのであれば、新旧両方の契約が一定期間重なる可能性があります。一方で、現在の事務所では原状回復が必要です。新しい事務所では内装工事が必要になるかもしれません。これらをすべて並べてみると、多少の賃料重複を受け入れた方が、現実的な移転スケジュールを組みやすいケースもあります。
二重家賃を完全になくすことだけを優先すると、内装工事や引越しに十分な時間を取れなくなる可能性があります。
新旧オフィスの賃料が重なることも想定しておく
事務所移転では、新旧オフィスの賃料が一定期間重なることがあります。私が相談を受ける中でも、1〜2か月程度重なることを前提に移転スケジュールを考えるケースがあります。もちろん、賃料が重ならない方が費用は抑えられます。しかし、「二重家賃をゼロにする」ことだけが最優先ではありません。
新しい事務所の工事を終える。引越しをする。現在の事務所を空にする。原状回復工事を行う。それぞれに必要な期間を確保したうえで、賃料が重なる期間をできるだけ短くするという考え方の方が現実的です。
フリーレントを二重賃料の負担軽減に使うこともある
新しい事務所の契約条件によっては、フリーレントを相談することもあります。例えば事務所の場合、「契約後に内装工事の期間が必要なので、その期間についてフリーレントを相談したい」という交渉です。フリーレントが認められれば、現在の事務所との賃料重複を軽減できる場合があります。
ただし、フリーレントが必ず認められるわけではありません。物件や募集状況、貸主の考え方によって変わります。また、「現在の事務所との賃料が重なるから、その分を無料にしてほしい」という借主側の事情だけでは、貸主がメリットを感じにくい場合もあります。そのため、この記事ではフリーレントを「二重賃料を完全になくす方法」と考えるのではなく、移転全体の費用を調整する一つの選択肢として捉えています。
賃料・フリーレント・敷金といった条件を貸主へどう伝えるかについては、 店舗・事務所の申込条件はどう整理する?後出し交渉を防ぐ条件設計と貸主への伝え方 でも紹介しています。
新しい事務所の賃料だけでは、移転費用は判断できない
事務所探しをしていると、どうしても新しい物件の賃料や敷金・保証金に目が行きます。ただ、実際の移転ではそれ以外にも費用が発生します。例えば、次のような費用です。
- 現在の事務所の賃料
- 新しい事務所との賃料重複
- 現在の事務所の原状回復費用
- 新しい事務所の内装工事費
- 引越し費用
- 家具・什器等の購入費用
新しい物件の賃料だけを比較して、「こちらの方が月額賃料が安い」と判断しても、移転全体では別の結果になることがあります。私が移転相談の最初に現在の契約書を確認するのも、この退去側の費用とスケジュールを先に把握しておかなければ、新しい物件の条件だけでは移転全体を判断できないためです。そのため私は、新しい物件を提案するときも、入居する側の費用と、退去する側の費用を分けずに考えるようにしています。
移転を少し先にする場合でも、契約内容は今確認しておく
現在の契約書を確認した結果、「今すぐ移転する必要はない」という判断になることもあります。それ自体は問題ありません。大切なのは、契約内容を確認したうえで、待つと判断しているかどうかです。
何となく、「まだ6か月あるから大丈夫」と考えているのと、「解約予告、原状回復、内装工事を逆算した結果、あと2か月は待っても大丈夫」と判断しているのでは大きく違います。
事務所移転では、余裕を持って準備できるほど、物件の選択肢も増えます。逆に期限が迫ってから探し始めると、「この日までに入居できる物件」という条件が加わり、選択肢を狭めることになります。
事務所移転のスケジュールについてよくある質問
事務所移転では、最初に何を確認すればよいですか?
私はまず、現在借りている事務所の賃貸借契約書を確認してもらいます。解約予告、原状回復、違約金や費用負担、特約事項などを確認し、いつまでに新しい事務所へ移る必要があるのかを整理します。
解約予告が6か月なら、移転準備は6か月かけられますか?
必ずしもそうではありません。例えば原状回復工事に2か月必要であれば、その前までに現在の事務所を空にしておく必要があります。実際の期間は契約内容や工事内容によって異なるため、解約日から逆算して考える必要があります。
新しい事務所が決まってから解約予告を出してもよいですか?
その進め方を選ぶケースもあります。ただし、新しい物件を契約してから現在の事務所の契約が終了するまで、新旧両方の賃料が発生する可能性があります。賃料重複だけでなく、内装工事や原状回復期間も含めて判断するようにしています。
二重家賃は避けた方がよいですか?
できるだけ短くした方が費用は抑えられますが、完全になくすことだけを優先すると移転スケジュールが厳しくなる場合があります。内装工事、引越し、原状回復まで含めて、無理のない日程を組むことをおすすめします。
フリーレントを使えば二重家賃をなくせますか?
フリーレントが認められれば、負担を軽減できる場合があります。ただし、物件や貸主の考え方によって異なるため、必ず認められるものではありません。
事務所移転は「入居」と「退去」を一つのスケジュールで考える
事務所移転の相談を受けたとき、私は最初に現在の事務所の契約書を確認してもらいます。理由は、解約予告や原状回復の条件によって、移転に使える時間も費用も大きく変わるからです。
例えば、解約予告6か月。原状回復2か月。という条件であれば、単純に「あと6か月ある」と考えることはできません。その前に新しい事務所を決め、必要に応じて内装工事を行い、引越しを終える必要があります。新旧オフィスの賃料が一定期間重なる可能性もあります。
だからこそ、新しい物件の賃料や初期費用だけを見るのではなく、今の事務所をどう退去するのかと、新しい事務所へどう移るのかを一つのスケジュールとして考えることが大切です。
不動産賃貸仲介 伴走支援室 では、事務所移転を検討しているものの、いつから物件探しを始めればよいか分からない場合に、まず現在の賃貸借契約書を確認し、退去までの日程を整理するところから一緒に進めることも可能です。
事務所移転のスケジュールに不安がある方へ
「いつから物件探しを始めればよいか分からない」
「今の事務所の解約予告・原状回復の条件を確認してほしい」
という方は、現在の契約内容をお聞かせください。初回のご相談は無料です。

