この記事の要点
店舗・事務所の申込みでは、賃料やフリーレントなどの希望をそのまま貸主へ伝えるのではなく、申込み前に「何を優先するのか」「なぜその条件が必要なのか」を整理しておく必要があります。私が案件を進めるときは、交渉条件を一度すべて出し、借主側の優先順位と真意を確認したうえで、貸主側のメリットも含めて一括で提示します。審査後に条件が追加される「後出し交渉」を防ぐことが、その後の契約や工事を円滑に進めることにもつながります。
店舗・事務所仲介をしていると、申込書を提出した後になって、
「やはり賃料も下げてほしい」
「入居を1か月遅らせたい」
「フリーレントも追加で欲しい」
と、新しい希望が出てくることがあります。
私は2015年から不動産仲介に携わり、オフィス専門の仲介会社で事務所・店舗仲介を中心に経験してきました。 現在は独立し、賃貸仲介へ参入する会社の立ち上げや案件の進め方を支援しています。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。
私自身、経験が浅かった頃に、申込み後に出てきた追加条件をそのまま貸主へ伝え、強い反発を受けた結果、契約自体が白紙になったことがあります。
それ以降、条件交渉は「申込みが入ってから考えるもの」ではなく、申込み前から設計しておくものとして扱うようになりました。
内見当日の進め方は 事務所仲介の内見で気をつけたいこと|案内当日の準備と信頼を得る対応 で紹介しました。この記事では、その次の段階となる申込条件の整理と、貸主への交渉方法について書きます。
この記事で紹介すること
- 申込み前に交渉条件をすべて出す
- 交渉条件を3つに分け、優先順位を整理する
- 賃料・フリーレント・敷金は「なぜ必要か」まで聞く
- 貸主へはメリットを添えて一括提示する
- 後出し条件が出たら、案件全体をもう一度整理する
申込み前に交渉条件をすべて出す
店舗・事務所仲介の条件交渉で避けたいのは、借主から言われた内容をそのまま貸主へ転送する状態です。
「賃料を3万円下げてほしいそうです」「フリーレントを2か月欲しいそうです」「敷金も減額してほしいそうです」と、一つずつ貸主へ伝えるだけでは、仲介会社が間に入っている意味が薄くなります。
さらに問題になるのが、条件が後から追加される場合です。最初に賃料減額を交渉し、貸主が了承した後で「やはりフリーレントも欲しい」、さらに審査後に「入居開始日も1か月遅らせたい」となれば、貸主から見れば「あとから条件が次々に変わる借主」という印象になります。借主としては一つひとつに理由があっても、その背景を知らない貸主から見れば、単なる追加要求に見えることがあります。
そのため私は、申込書を提出する前に「今回の契約で交渉したい条件を一度すべて出してください」と確認するようにしています。交渉は、要望を小分けにして伝えるのではなく、貸主と借主がどこなら合意できるかを整理する作業です。
交渉条件を3つに分け、優先順位を整理する
借主から複数の希望が出たときは、すべてを同じ重さで扱わないようにしています。私は、大きく次の3つに分けて考えます。
この条件が通らなければ契約できない条件
- 月額賃料が予算を超える
- 工事期間として最低1か月必要
- 営業開始日に間に合わない
- 初期費用が資金計画を超えてしまう
ここは借主側の契約判断に直接影響するので、貸主へも理由を含めて説明する必要があります。
できれば通したい条件
- 賃料をもう少し下げたい
- フリーレントを追加してほしい
- 敷金を少し減らしてほしい
希望ではあるものの、通らなければ契約できないわけではない条件です。
他の条件で代替できるもの
ここを整理しておくと、交渉の選択肢が増えます。例えば「賃料減額が難しいのであれば、フリーレントを増やしてほしい」「敷金減額が難しいのであれば、契約開始日を少し後ろにしたい」などです。
借主から「全部交渉してください」と言われても、本当にすべてが必要なのかは分かりません。申込み前にこの優先順位を確認しておけば、貸主から一部の条件を断られた場合でも、次の案を出しやすくなります。
賃料・フリーレント・敷金は「なぜ必要か」まで聞く
交渉項目だけではなく、その背景まで確認します。例えば「賃料を下げたい」という希望でも、毎月の固定費を抑えたいのか、社内で決められた予算を超えているのか、周辺相場より高いと感じているのか、とりあえず交渉できるならしてほしいだけなのかでは、意味がまったく違います。
フリーレントも同じです。「2か月欲しい」と言われた場合、内装工事に2か月かかるのか、現在の物件との二重賃料を避けたいのか、前回の移転でも2か月もらえたからなのか、賃料交渉の代わりに欲しいのかなど、理由によって貸主への説明も変わります。
例えば内装工事期間が理由であれば、「借主としては営業開始前の工事期間にも賃料が発生することを懸念しています」と説明できます。単に「フリーレント2か月を希望しています」と伝えるより、貸主も判断しやすくなります。
私は、交渉条件を聞いたときに、なぜその条件が必要なのかをもう一段確認するようにしています。理由が分からないままでは、貸主から代替案を出されたときにも判断できません。
貸主へはメリットを添えて一括提示する
条件は一度にまとめて提示する
申込書を提出するときには、交渉したい内容をなるべく一度にまとめます。
- 賃料:月額3万円減額希望
- フリーレント:1か月希望
- 敷金:6か月から4か月へ減額希望
- 契約開始日:◯月◯日
- 契約締結:今月中に対応可能
というように整理し、これに、それぞれの理由を添えます。
交渉条件を一度に出す理由は、貸主に全体を見て判断してもらうためです。賃料だけ先に交渉して、了承後にフリーレント、さらにその後に敷金という進め方をすると、貸主側もどこまで譲歩すれば契約になるのか分かりません。
最初から全体を出しておけば、「賃料減額は難しいが、フリーレントなら1か月出せる」「敷金4か月は難しいが、5か月なら可能」というように、貸主側からも条件を組み替えてもらいやすくなります。私はこれを、単なる条件交渉というより、貸主と借主の条件を組み合わせる作業だと考えています。
要望だけでなく、貸主のメリットも添える
借主側の要望だけを並べても、貸主が応じる理由はありません。そのため、貸主にとって判断材料になる情報も合わせて提示します。
- 条件がまとまれば今月中に契約できる
- 長期入居を予定している
- 移転ではなく増店なので既存事業の実績がある
- 保証会社の審査が通っている
- 工事内容や営業開始時期が具体的に決まっている
例えば賃料減額をお願いする場合でも、「3万円下げてください」だけではなく、「本物件を第一希望としており、条件がまとまれば今月中に契約できます。また、少なくとも5年以上の入居を予定しています。そのため、賃料について月額3万円の調整をご検討いただけないでしょうか」と伝えれば、貸主側にも検討する材料があります。
貸主へ「3万円下げてください」と伝える前に、貸主が3万円下げる理由をこちらで作れるかを、まず考えるようにしています。賃料を下げてもらう代わりに、契約締結を早める、長期入居の意思を示すなど、借主側から出せる条件がないかも考えます。「何を譲ってもらうか」だけではなく、「その代わりに借主側から何を提示できるか」まで整理してから貸主へ話します。
仲介担当者が気をつけたいのが、「せっかく借りると言っているのだから、少しくらい条件を下げてもいいでしょう」という感覚です。貸主から見れば、賃料を下げれば契約期間中ずっと収入が減ります。敷金を下げれば、未払いや原状回復費用などに備える担保が小さくなります。フリーレントを出せば、その期間の収入はありません。借主には借主の事情がありますが、貸主にも貸主の事情があります。そこを考えず、借主の希望だけを代弁すると、貸主との関係も悪くなります。
私は、この条件は借主にとってなぜ必要なのかと、貸主が受け入れる理由は何かの両方を整理してから交渉するようにしています。交渉とは、借主の希望を通すことだけではありません。双方が契約できる条件を探す作業です。
後出し条件が出たら、案件全体をもう一度整理する
それでも、申込み後に新しい希望が出てくることはあります。その場合、すぐに貸主へ電話するのではなく、「これ以外に希望している条件はありませんか」と、もう一度すべて確認します。ここで再び小出しにしてしまうと、同じことが繰り返されます。追加条件が契約に欠かせないものなのか、できれば通したい希望なのかも確認します。
私自身、経験が浅かった頃に、この確認をせず追加条件をそのまま貸主へ伝えたことで、貸主から強い指摘を受け、契約が白紙になった経験があります。この経験から、私は後出し交渉そのものを完全になくすことよりも、出てきた条件をそのまま流さず、もう一度案件全体を整理することを意識しています。
申込条件の整理と交渉についてよくある質問
交渉条件はいつ確認すればいいですか?
私は内見の段階から少しずつ確認し、申込みへ進む前に一度すべて聞くようにしています。申込書を提出した後に条件が追加される状態を、できるだけ避けるためです。
借主から「全部交渉してほしい」と言われた場合はどうしますか?
すべて同じ優先順位なのかを確認します。「通らなければ契約できない条件」「できれば通したい条件」「他の条件で代替できるもの」に分けると整理しやすくなります。
賃料・フリーレント・敷金は、別々に交渉したほうがいいですか?
私は原則として一度に提示します。貸主にも条件全体を見てもらい、「賃料は難しいがフリーレントなら可能」といった代替案を出してもらいやすくするためです。
貸主への交渉で何を添えればいいですか?
契約可能時期、入居予定期間、借主の事業状況など、貸主側が判断材料にできる情報を添えます。借主の要望だけを伝える状態にはしないようにしています。
申込み後に追加条件が出たらどうしますか?
その条件だけをすぐ貸主へ伝えるのではなく、「ほかに希望条件はないか」をもう一度確認します。そのうえで優先順位と理由を整理してから貸主へ相談します。
条件交渉は、申込み前の設計で大きく変わる
店舗・事務所の条件交渉では、次のような流れで進めています。
- 交渉項目を全部出す
- 優先順位を決める
- 真意を確認する
- 代替できる条件を整理する
- 貸主側のメリットを加える
- 一括で提示する
交渉力というと、「貸主にどう話すか」に目が向きやすいですが、その前段階でどれだけ条件を整理できているかによって、貸主への伝え方も変わります。
お客様の希望を右から左へ伝えるのではなく、貸主と借主がどの条件なら合意できるのかを整理する。それが、店舗・事務所仲介における条件交渉の役割だと考えています。
賃貸仲介の伴走支援 では、こうした申込条件の整理や貸主への交渉内容についても、案件ごとに一緒に確認しています。
申込条件の整理や貸主との交渉に迷っている方へ
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