この記事の要点
東京都内にある築約30年、1K中心のマンション3棟、合計約100戸について募集方法を見直した事例です。支援開始時の3棟全体の入居率は約80%でした。ただ、担当者には「募集に出せば比較的早く決まる」という認識があり、募集方法そのものには大きな課題を感じていませんでした。しかし、競合物件を調査すると、募集条件は何年も見直されておらず、賃料は周辺相場より低めでした。さらに広告料やフリーレントにも改善余地がありました。そこで、賃料を9万円から9万5,000円へ引き上げながら、広告料は2か月分から1か月分へ削減。募集方法や写真、図面、原状回復の進め方も見直しました。結果として、募集した住戸の多くが掲載から1か月以内に成約し、約5か月後には入居率95%以上まで改善しました。その後も実際の申込状況を分析し、約1年後には9万7,000円まで賃料を引き上げています。
| 項目 | 支援開始時 | 見直し後 |
|---|---|---|
| 3棟全体の入居率 | 約80% | 約5か月後に95%以上 |
| 対象住戸の募集賃料例 | 9万円 | 9万5,000円、その後9万7,000円 |
| 広告料 | 賃料2か月分 | 賃料1か月分 |
| フリーレント | 多めに設定 | 原則当月分のみ |
| 募集資料 | 写真少・白黒図面 | 写真撮り直し・カラー図面 |
今回紹介する事例は、最初からマンションの空室対策について相談を受けたものではありません。きっかけは、以前一度挨拶をした不動産会社の方が、名刺管理アプリのEightで私の投稿を見てくれていたことでした。そこから事業用物件について相談を紹介していただきました。
私は2015年から不動産仲介に携わり、事務所や店舗などの事業用物件を多く扱ってきました。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。 そのため、最初に相談を受けた事業用物件については、募集条件や仲介会社への情報提供などを比較的早い段階で整理することができました。その後も支援を続ける中で、事業用物件だけではなく、不動産全般について相談を受けるようになります。そこで私から、支援先の売上を伸ばす方法の一つとして提案したのが、同社がマスターリースしていたマンション3棟の募集改善でした。
一度の名刺交換や挨拶から、思っていたより遠い人づてに案件がつながることについては、 オフィス仲介の案件はどこから来るか|人脈をフル活用する でも紹介しています。
この記事で紹介すること
- 「すぐ決まる物件」にも改善余地があった理由
- 約15件の競合物件を実際に内覧して賃料を決めた方法
- 賃料を上げながら広告料とフリーレントを減らした募集改善
- 写真・図面・原状回復まで見直した理由
- 約5か月で入居率95%以上まで改善した流れ
- 実際の申込者から情報を集め、さらに賃料を上げた方法
「すぐ決めてくれる会社があるので問題ない」と言われた
対象となったのは、東京都内にあるマンション3棟です。築年数は約30年。1Kを中心とした約100戸で、いずれも駅から徒歩10分以内の立地でした。最初にマンションの募集について聞いたとき、担当者からは、「住居はいつもすぐに決めてくれる会社があるので、特に問題ありません」という話を聞いていました。
昔から付き合いのある会社があり、空室が出ると比較的早く入居者を決めてくれていたそうです。そのため、担当者としても募集方法そのものには大きな課題を感じていませんでした。支援開始時の3棟全体の入居率は約80%でしたが、「募集に出せば比較的早く決まる」という認識があったためです。確かに、空室が出てもすぐに決まるのであれば、表面的には大きな問題はありません。ただ、私は賃料や募集条件、成約までの流れをもう少し詳しく聞いてみました。すると、別の問題が見えてきました。
空室が決まっていても、募集条件が適正とは限らない
まず気になったのが、募集条件が何年もほとんど見直されていなかったことです。空室が出れば決めてくれる会社がいたため、「今の条件で決まっているのだから、このままでよい」という状態が続いていました。しかし、実際には募集賃料が周辺相場より低めに設定されていました。さらに、次のような状態でした。
- 広告料は2か月分
- フリーレントを多く付けている住戸もある
- 契約書は比較的簡易的
- 募集写真の枚数が少ない
- 写真の撮影角度が悪く、物件の特徴が分かりにくい
- 募集図面も白黒で見づらい
つまり、「入居者が決まらないこと」が問題だったのではありません。問題だったのは、どの賃料で、どれだけの募集コストをかけて決めているのか、という部分です。
支援先は、このマンションをオーナーからマスターリースしていました。オーナーへ支払うマスターリース賃料は一定です。そのため、転貸する賃料が低ければ収入は減ります。空室が増えても収入は減ります。広告料を多く払い、フリーレントを長く付けても収益性は下がります。私は、「早く決まっているから問題ない」ではなく、募集の中身まで一度見直した方がよいと考えました。
約15件の競合物件を実際に内覧して比較した
賃料を見直すため、周辺の競合物件を約15件比較しました。ただ、ポータルサイトに掲載されている賃料だけを見て判断したわけではありません。実際に物件を内覧しました。確認したのは、次のような内容です。
- 築年数
- 駅からの距離
- 室内の状態
- 設備
- 建物の状態
- 同じような間取りの募集賃料
今回のマンションは築約30年でした。築年数だけを見ると、新しい物件ではありません。一方で、駅徒歩10分以内、バス・トイレ別、オートロック、都内で立地が良いという条件がありました。すべての部屋がきれいにリフォームされているわけではありませんでしたが、実際に競合と比較すると、当時の9万円という募集賃料は低めだと判断しました。そこで最初に提案したのが、9万円から9万5,000円への賃料変更です。
賃料を5,000円上げながら、広告料を2か月分から1か月分へ変更した
賃料だけを見直したわけではありません。それまで2か月分出していた広告料についても、1か月分へ変更しました。フリーレントについても、原則として当月分のみとしました。つまり、賃料を5,000円上げる一方で、広告料は2か月分から1か月分へ減らすという見直しです。
条件だけを見ると、「これまでより決まりにくくなるのではないか」と感じるかもしれません。実際、支援先からも、「本当に大丈夫ですか」という反応がありました。もう一つ心配されていたのが、それまで長く付き合ってきた仲介会社との関係です。これまで空室を決めてもらっていた会社に対して、新しい条件を提示することで、「今までの付き合いをないがしろにすることにならないか」という懸念もありました。
ただ、私は競合物件を実際に確認していたため、9万5,000円でも十分に募集できると考えていました。また、長く付き合っている会社だからという理由だけで、何年も同じ募集条件を続けることも、マスターリース事業としては良い状態ではないと考えました。
既存の仲介会社を外したわけではない
募集方法を変えるといっても、これまで付き合ってきた会社との取引をやめたわけではありません。新しく決めた賃料や広告料などの条件は統一したうえで、その会社にも引き続き入居者を紹介してもらいました。以前と比べれば、その会社から決まる件数は減ったかもしれません。ただ、募集先を広げたことで、他の仲介会社からも問い合わせや申込みが入るようになりました。結果として、特定の会社に頼らなくても空室が決まる体制を作ることができました。
今回見直したのは、既存の会社との関係ではなく、特定の会社に依存していた募集体制と募集条件です。
写真はすべて撮り直し、募集図面も作り直した
賃料を上げるのであれば、単純に募集金額だけ変更して終わりにはできません。募集の見せ方も見直しました。以前の募集写真は枚数が少なく、撮影角度もあまり良くありませんでした。写真を見ても、「部屋の広さを見せたいのか」「設備を見せたいのか」「どこを見てほしいのか」が分かりにくいものが多くありました。
そこで、掲載写真はすべて撮り直しました。室内だけでなく、設備や収納なども分かるように撮影しています。募集図面も白黒のものから、見やすいカラーの図面へ変更しました。設備についてもできるだけ詳しく記載しました。賃料を上げるのであれば、その賃料でも選んでもらえる募集資料を作るところまで必要だと考えたためです。
原状回復を後回しにしていた部屋も、すぐに工事へ入った
もう一つ見直したのが、原状回復工事のタイミングです。以前は空室が複数ある場合、「ほかの部屋が決まってきたら、この部屋も原状回復しよう」と、工事を後回しにしている住戸がありました。しかし、工事をしていなければ、その部屋は実質的に募集できません。空室が減ってから工事を始めれば、そこからさらに募集期間が発生します。そこで、退去した住戸については、できるだけ早い段階で原状回復工事へ入ってもらうようにしました。募集条件だけではなく、退去してから次の入居者を募集できる状態になるまでの時間も短くしていきました。
契約書も、トラブルになりやすい部分を特約で補った
契約書についても確認しました。それまで使用していたものは比較的簡易な内容だったため、既存の契約書を使用しながら、退去時の費用負担や喫煙による汚損、鍵交換、火災保険など、入居後や退去時に認識違いが生じやすい項目を特約として補いました。こうした費用負担を定める場合は、内容や負担範囲を明確にし、契約時に借主へ説明したうえで合意を得ることも必要です。
空室が早く決まっても、退去時や入居中にトラブルが増えてしまえば、長期的には良い運用とは言えません。募集から契約まで一連で見直しました。
多くの部屋が掲載から1か月以内に成約した
条件変更後は、支援先自身でも広くポータルサイトへ掲載するようにしました。賃料は9万円から9万5,000円へ上げています。広告料は2か月分から1か月分へ減らしました。フリーレントも原則当月分のみです。それでも、募集した住戸の多くが掲載から1か月以内に成約しました。入居率も早い段階で90%を超え、その後も退去が出るたびに新しい募集賃料で成約していきました。
そして条件変更から約5か月後には、入居率95%以上まで改善しました。対象は3棟、約100戸です。当初は入居率80%前後だったため、かなり大きな改善でした。
今回の結果は、賃料変更だけによるものではありません。募集先を広げ、広告料やフリーレント、写真、図面、原状回復の進め方まで同時に見直した結果です。
自社募集を始めたことで、さらに賃料を上げられることが分かった
支援先自身で募集を行うようになると、それまで見えていなかった情報も入ってくるようになりました。特に多かったのが、法人からの申込みです。申込みや契約時にヒアリングしていくと、その地域について法人が設定している賃料の上限に、まだ少し余裕があることが分かってきました。当時の9万5,000円という募集賃料から、さらに2,000円程度は上げられるのではないかと考えました。そこで9万7,000円への変更を提案しました。
ただし、最初に提案したときは支援先から承諾を得られませんでした。そのため、すぐに値上げはしていません。9万5,000円で実際に募集し、成約実績を積み上げました。その後、約1年後に改めて賃料を見直し、9万7,000円へ変更しました。
9万円から9万7,000円へ上げても成約スピードは落ちなかった
結果として、9万7,000円へ変更した後も成約スピードはほとんど変わりませんでした。支援開始時と比べると、9万円から9万7,000円まで賃料を上げたことになります。一度に7,000円上げたわけではありません。次のような順番です。
- まず競合物件を調査して5,000円上げる
- その条件で実際に募集する
- 問い合わせや申込者の属性を確認する
- 法人側の予算感も把握する
- その実績をもとに、さらに2,000円上げる
これまで支援開始後の新規契約は約30件あります。一度賃料査定をして終わりではなく、実際の問い合わせや申込み、成約状況から市場を確認しながら、募集条件を更新していきました。
現在は長期入居者の賃料も見直している
この支援は現在も続いています。新規募集だけを見ると、従来より賃料を7,000円上げた状態で成約できるようになりました。一方で、10年程度入居している方の中には、現在の募集賃料と比べて低い賃料のまま契約している住戸もあります。そこで現在は、既存入居者の賃料についても見直しを進めています。
ただし、大きく増額して退去につながってしまえば、必ずしも収益改善にはなりません。そのため、現在の賃料や周辺相場、入居期間、退去リスクなどを個別に確認しながら、今回の対象では1戸あたり2,000円程度を目安に増額の相談をしています。
新規募集の賃料を上げる。入居率を改善する。募集コストを下げる。さらに既存入居者の賃料も無理のない範囲で見直す。こうした改善を積み重ねた結果、支援開始時と比べると、マスターリース事業の賃料収入はかなり増えていると感じています。
この事例で一番大きかったのは「決まっているから問題ない」と考えなかったこと
今回のマンションは、最初から全く入居者が決まらない物件ではありませんでした。むしろ、「いつも決めてくれる会社がある」という状態でした。そのため、一見すると改善する必要がないように見えます。ただ、実際に確認すると、次のような改善余地がありました。
- 募集条件が何年も見直されていない
- 周辺相場より賃料が低い
- 広告料を多く払っている
- フリーレントも多い
- 募集写真や図面が十分ではない
- 原状回復を後回しにしている住戸がある
- 契約条件も簡易的
空室が決まっているかどうかだけを見ていると、こうした部分には気付きにくいです。私が今回の事例で改めて感じたのは、「決まっていること」と「良い条件で決まっていること」は別だということです。
仲介会社として物件を預かり、空室を埋める支援とは別に、貸主側に入って物件担当者としてリーシング全体を立て直した事例は、 物件担当者が退職したオフィスビルを貸主側からどう立て直したか 6か月で4フロア成約、8か月で満室までの支援事例 でも紹介しています。あちらは「空室をどう埋めるか」が中心ですが、今回は「埋まっている物件の収益性をどう上げるか」という、もう一歩先の論点です。
よくある質問
入居率が高ければ、募集条件を見直す必要はありませんか?
必ずしもそうとは限りません。入居率が高くても、周辺相場より賃料が低かったり、広告料やフリーレントを必要以上に付けていたりすることがあります。空室率だけではなく、どの賃料・条件で成約しているのかまで確認することが大切です。
賃料を上げると空室期間が長くなりませんか?
物件によります。今回の事例では、周辺約15件を実際に確認し、競合と比較したうえで賃料を上げました。9万円から9万5,000円、さらに9万7,000円まで引き上げましたが、成約スピードはほとんど落ちませんでした。大切なのは、感覚で値上げするのではなく、競合と比較して判断することだと考えています。
広告料を減らしても決まりますか?
これも物件やエリアによります。今回の事例では広告料を2か月から1か月へ減らしましたが、募集先を広げ、写真や図面、設備情報も見直したことで、多くの住戸が掲載から1か月以内に成約しました。広告料だけで募集力が決まるわけではありません。
競合物件はポータルサイトを見るだけでは足りませんか?
募集賃料を確認するだけであれば、ポータルサイトでも多くの情報を得られます。ただ、室内状態や建物の雰囲気、設備の見え方などは、実際に見ると印象が違うことがあります。私は今回、約15件を実際に内覧したうえで賃料を判断しました。
長期入居者の賃料も上げた方がよいですか?
一律に上げればよいとは考えていません。現在の賃料、周辺相場、入居期間、退去された場合の空室リスクなどを見ながら判断する必要があります。今回の事例では、長期間入居している方について、2,000円程度を目安に増額の相談を進めています。
空室が埋まっている物件にも収益改善の余地はある
今回の支援は、もともとEightで発信を見てくれていた不動産会社から、事業用物件について紹介を受けたことから始まりました。事業用物件の支援を続ける中で、不動産全般の相談を受けるようになり、私から売上改善策として提案したのがマンション3棟の募集見直しです。
対象は東京都内、築約30年、1K中心の約100戸。当初は、「すぐ決めてくれる会社があるので問題ない」と考えられていました。しかし、募集条件は何年も見直されていませんでした。そこで、次のような改善を行いました。
- 約15件の競合物件を実際に内覧
- 賃料9万円を9万5,000円へ変更
- 広告料2か月分を1か月分へ変更
- フリーレントを原則当月分のみへ
- 写真をすべて撮り直し
- 募集図面をカラー化
- 設備情報を詳しく掲載
- 原状回復を早期着手
- 契約書へ必要な特約を追加
- 募集先を広げる
結果として、多くの住戸が掲載から1か月以内に成約し、約5か月で入居率95%以上まで改善しました。その後は申込者の情報も分析し、約1年後に9万7,000円まで賃料を引き上げています。現在も支援は継続しており、長期入居者の賃料についても見直しを進めています。
今回の事例から分かるのは、空室が埋まっているからといって、現在の募集条件が最適とは限らないということです。賃料、広告料、フリーレント、募集写真、募集図面、原状回復、契約条件。一つずつ見直していくと、空室率だけでは見えていなかった改善余地が見つかることがあります。
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