この記事の要点
店舗物件の媒介を取得するとき、貸主へ「募集させてください」と伝えるだけでは、なかなか任せてもらえません。 私が立ち上げを支援するときは、賃料査定だけでなく、建物の特徴から想定業種を整理し、敷金・保証金などの募集条件、募集開始後の見直し方まで提案します。 貸主から見て「この会社なら募集後も考えてくれそうだ」と感じてもらえる状態を作ることが、媒介取得につながります。
地方で賃貸仲介を立ち上げる支援をしていると、空いている店舗の貸主と話ができても、「ここから何を提案すれば、募集を任せてもらえるのか分からない」という場面があります。
媒介を取得するために必要なのは、「募集させてください」とお願いすることだけではありません。私が支援している会社では、貸主と接点を持てた後に周辺相場を調べ、建物の特徴から入居しそうな業種を考え、募集条件まで整理したうえで貸主へ提案するようにしています。
私は2015年から不動産仲介に携わり、オフィス専門の仲介会社で事務所・店舗仲介を中心に経験してきました。 現在は独立し、賃貸仲介へ参入する会社の立ち上げ支援も行っています。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。
現地開拓から貸主へ接触するまでの流れは 地方で賃貸仲介を立ち上げる方法|「媒介獲得型」と「顧客獲得型」、どちらから始めるか で紹介しました。この記事では、その次の段階となる「貸主から募集を任せてもらうために何を提案するか」を、実際の支援内容をもとに紹介します。
この記事で紹介すること
- 貸主と話ができた後、何を提案するか
- 比較物件が少ない地方で賃料をどう査定するか
- 建物の特徴から想定業種と募集条件を考える方法
- 貸主への提案の組み立て方
- 提案前に貸主役との練習を行う理由
「募集を任せてください」の前に、賃料と募集方法を提案する
今回支援している地方企業では、空いていそうな店舗を現地で見つけ、所有者を調べて電話や訪問で接触し、募集会社が決まっていなければ「一度相場を調べて募集条件をご提案させてください」と次の面談につなげています。この接触の流れは 地方で賃貸仲介を立ち上げる方法 に書きました。
貸主からすれば、まだ付き合いのない不動産会社です。その状態で「任せてください」と言うより、「この物件なら、こういう業種を狙って、この条件で募集してみてはどうでしょうか」と具体的に話せる方が、その会社がどこまで考えて募集するのかを判断してもらいやすくなります。
ここから、媒介取得に向けた提案が始まります。
地方で比較物件が2〜3件しかないとき、どう査定するか
貸主へ提案するためには、まず賃料を考えなければなりません。ただ、地方の店舗物件では、周辺に比較できる募集事例がほとんどないことがあります。今回の支援でも、同じエリアで現在募集されている参考物件は2〜3件程度でした。
そのため、現在募集中の物件だけを見るのではなく、募集を終了していても情報が残っている物件や、坪数は違っても条件が近い物件まで確認しました。比較するときに見ているのは、主に階数、大通り沿いかどうか、築年数などです。
例えば今回の物件が30〜40坪だからといって、同じ坪数だけを探す必要はありません。20坪や50坪でも、1階路面で大通り沿い、築年数も近いのであれば、募集坪単価を考える材料になります。
地方では「完全に同じ比較物件」を探そうとしても見つからないことがあります。そのため、条件の近い複数の物件を見ながら、この建物ならどの程度まで募集賃料を設定できそうかを組み立てていきます。
賃料だけでなく「どんな業種に貸すか」まで考える
今回の物件は、1階の路面店舗で視認性があり、駐車場も確保できる建物でした。そこで、美容室や物販だけではなく、次のような業種も入居候補として考えました。
- フィットネスジム
- 就労支援事業
- 介護系事業
物件を募集するときに想定業種を考える理由は、広告のターゲットを決めるためだけではありません。業種によって、借主が入居時に必要とする費用が変わるからです。美容室やクリニック系であれば、給排水を含めた内装工事にまとまった費用がかかることがあります。
今回の物件は現況で引き渡し、退去時も基本的にはその状態で返してもらう条件だったため、敷金や保証金を高く設定するより、その分を借主の内装費に回せる募集条件を提案しました。
用途によって敷金・保証金の条件を分けた別の事例は 物件担当者が退職したオフィスビルを貸主側からどう立て直したか 6か月で4フロア成約、8か月で満室までの支援事例 でも紹介しています。
つまり、「周辺相場がこのくらいだから、この賃料です」だけではありません。建物の特徴から想定業種を考え、その業種が入居しやすい条件まで一緒に整理します。この提案ができると、貸主にも「単に掲載するだけではなく、どうすれば借り手が見つかるかまで考えている」と伝わりやすくなります。
貸主への提案の組み立て方
支援先には、査定結果をそのまま貸主へ持っていく前に、私を貸主役として一度説明してもらっています。提案するときは、次のような順番で話します。
- この建物の特徴と良い部分
- 周辺の募集相場
- この建物で想定できる業種
- 想定業種を考えた場合の初期費用
- 賃料・敷金・保証金などの募集条件
- 3か月程度募集した後の見直し方
最初から「周辺相場を見ると坪○円なので、この賃料です」とは話さない方がよいと考えています。貸主からすれば、自分の物件を預けようとしている相手です。
まず「この建物はガラス張りで自然光が入りやすく、室内も明るいのがとても好印象でした。1階で大通りからの視認性もあり、駐車場も複数台確保できます。店舗としてかなり使いやすい条件がそろっていると思います。美容室や物販だけでなく、フィットネスジムや福祉系の事業なども候補として考えられそうです」と建物の良さを説明します。
そのうえで、「一方、周辺ではこの条件で募集されているため、現在の状態ならこのくらいの賃料が現実的だと思います」と相場の話へ移ります。
その後、「この業種を狙う場合、内装費がかかるので保証金を高くしすぎない方が募集しやすいと思います」と募集条件につなげます。数字だけを伝えるよりも、なぜその条件にしたのかを一つずつ説明した方が、貸主も判断しやすくなります。
「もっと高く貸したい」と言われたときも否定から入らない
提案練習では、私が貸主役として途中で質問もします。例えば、「この条件で本当に問い合わせは来ますか?」「もう少し高く貸せないですか?」と聞きます。
「この条件で本当に問い合わせは来ますか?」と聞かれた場合は、「周辺相場に合わせた条件で、室内写真も見やすく撮影して掲載するので、問い合わせは期待できると思います。ただ、地方の店舗物件では、問い合わせから案内になるまで時間がかかる場合があります。想定している業種もいくつかあるので、その業種への営業も行います」といった説明をします。すぐに決まると約束するのではなく、募集後に何をするのかまで伝えます。
「もっと高く貸せないですか?」と聞かれた場合には、2つの提案があります。一つは、「お伝えした相場より高くなるため、問い合わせが少なくなる可能性はありますが、まずはご希望の賃料で募集して反響を見る方法もあります」と説明する方法です。もう一つは、「この部分まで内装を整えていただければ、現況より高い賃料を狙える可能性があります」と、物件側の改善案を出す方法です。貸主が高い賃料を希望しているからといって、すぐに「無理です」と否定する必要はありません。高く募集した場合に何が起きそうか、その賃料を狙うなら何を変えればよいかまで提案します。
3か月後の見直しまで話しておくと、募集後の提案もしやすい
貸主への提案では、募集開始時の条件だけでなく、その後についても説明します。今回の支援では、「まず3か月程度この条件で募集して、問い合わせや案内の状況を見ながら必要であれば条件を見直します」と伝えるようにしています。
これは募集後に、「3か月経ったけれど決まらないので、賃料を下げてください」と突然話をする状況を避けるためです。募集開始時点で、「反響がなければ何を確認するのか」「いつ条件を見直すのか」まで説明しておけば、貸主にも募集後の流れを想像してもらえます。貸主から見れば、募集開始時だけではなく、その後の状況まで考えている会社だと判断する材料にもなります。
提案前に「貸主役」を入れて練習する理由
支援先には、資料を作って終わりではなく、私を貸主だと思って最初から最後まで説明してもらいます。私は途中で質問し、その受け答えも確認します。その後、「私ならここはこう説明します」「この質問には、先にこの情報を伝えておいた方が答えやすいです」とフィードバックします。
賃料査定そのものが合っていても、貸主へ根拠を説明できなければ、募集を任せてもらえるとは限りません。逆に、「この建物の良さをどう見ているのか」「誰に貸そうとしているのか」「なぜこの募集条件なのか」「決まらなかったときに次はどうするのか」まで説明できれば、貸主も募集を任せた後の動きをイメージしやすくなります。
媒介を取得する営業は、お願いするだけではありません。物件を分析し、募集方法を提案すること自体が営業になります。
貸主から募集を任せてもらうときによくある質問
貸主に最初から「募集を任せてください」と言わない方がいいですか?
私は、いきなり媒介を依頼するより、募集会社が決まっていなければ「一度相場を調べて募集条件をご提案させてください」と次の面談につなげることが多いです。
周辺に比較できる店舗物件がほとんどない場合はどうしますか?
現在募集中の物件だけでなく、募集終了後も情報が残っている物件や、坪数は違っても階数・立地・築年数などが近い物件まで広げて参考にします。
賃料査定では想定業種まで考える必要がありますか?
店舗の場合は考えるようにしています。業種によって必要な内装工事費が変わるため、敷金・保証金などの募集条件を決める材料になるからです。
貸主が相場より高い賃料を希望した場合はどうしますか?
高く募集した場合に反響が少なくなる可能性を説明したうえで、一度その条件で募集する方法もあります。また、高い賃料を狙うのであれば、内装などの改善案を提示する方法もあります。
募集条件はいつ見直しますか?
物件によりますが、今回の支援では3か月程度を一つの目安として、問い合わせや案内状況を確認する考え方を貸主へ伝えています。
媒介取得は、貸主への提案から始まる
店舗物件の募集を任せてもらうには、「募集させてください」と伝えるだけではなく、建物を分析する、周辺相場を調べる、想定業種を決める、募集条件を考える、貸主へ理由を説明する、募集後の見直しまで提案する、ところまで準備した方が、貸主にも募集を任せた後の動きを想像してもらいやすくなります。
今回支援している会社でも、現地開拓で貸主と接点を作った後、こうした査定と提案を行い、店舗系物件の募集窓口を任せてもらいました。
賃料査定は、募集条件を決めるためだけの作業ではありません。「この会社なら、自分の物件を考えて募集してくれそうだ」と貸主に感じてもらうための提案材料にもなります。
賃貸仲介の伴走支援 では、物件分析や貸主への提案内容から一緒に整理しています。
貸主から募集を任せてもらう提案に迷っている方へ
「貸主と話はできるものの、その後どう媒介取得につなげればいいか分からない」 「査定結果をどう説明すればいいか不安」 という方は、現在の状況をお聞かせください。 初回のご相談は無料です。

