この記事の要点
事務所・店舗探しの相談では、エリア・賃料・坪数といった条件を聞くだけでなく、物件をどう使うのか、賃料以外にどれだけ予算があるのか、いつまでに決める必要があるのかまで確認してから物件を探します。そのうえで、希望条件を「絶対条件」「できれば叶えたい条件」「代替できる条件」の3つに分けておくと、検索結果に出てきた物件をただ送るのではなく、理由を添えて提案できるようになります。
事務所や店舗を探しているお客様から、「駅から5分以内で20坪くらい」「1階店舗で賃料30万円まで」と相談されることがあります。
希望条件をそのまま検索条件へ入力し、出てきた物件を送ることは簡単です。ただ、私はすぐには物件を探し始めません。
私は2015年から不動産仲介に携わり、オフィス専門の仲介会社で事務所・店舗仲介を中心に経験してきました。 現在は独立し、賃貸仲介へ参入する会社の立ち上げや案件の進め方を支援しています。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。
希望条件の背景を深掘りするヒアリングの技術は 事務所仲介のヒアリングで聞くべきこと|条件より理由を掘る技術 で紹介しました。この記事では、それに続けて、業種ごとの使い方、賃料以外の予算、入居時期をどう確認し、どう条件を整理してから物件を探すかを書きます。
この記事で紹介すること
- 業種と物件の使い方を具体的に確認する
- 賃料だけでなく初期費用や工事費まで確認する
- 入居時期から、契約・工事のスケジュールを逆算する
- 条件を3つに分けてから物件を探す
業種と物件の使い方を具体的に確認する
事務所・店舗では、何をするために借りるのかによって物件の探し方が大きく変わります。単に「事務所利用です」「美容室です」「飲食店です」だけでは、物件を選ぶには情報が足りません。
事務所の場合
例えば事務所であれば、何人で利用するか、今後採用予定があるか、来客があるか、会議室はいくつ必要か、電話やWeb会議が多いか、24時間利用する可能性があるか、荷物の搬出入があるか、セキュリティをどこまで求めるかなどを聞きます。
同じ10名の会社でも、全員がデスクワークをする会社と、営業社員が外出している時間が長い会社では、必要な面積が違います。来客が多い会社なら、エントランスや会議室をどの程度確保するかも物件選びに影響します。
店舗の場合
店舗ではさらに使い方を具体的に聞きます。営業する業種、営業時間、従業員数、想定する来店客数、必要な客席数、給排水を多く使うか、ガスを使うか、大きな電気容量が必要か、排気やダクトが必要か、看板をどこに出したいか、駐車場が必要か、搬入があるかなどです。
美容室であればシャンプー台の台数によって給排水の確認が必要になります。飲食店であれば厨房設備や排気、ガス、営業時間などを見る必要があります。ここまで聞いて初めて、「この物件は紹介できそう」「この物件は条件に合わなそう」という判断ができます。
ただし、仲介担当者だけで設備や法令まで断定する必要はありません。分からない内容については、管理会社、内装会社、建築士、消防や行政など、確認すべき相手へつなげます。店舗相談で確認している内容については、 住宅仲介をしながら店舗の相談を受けたときに気をつけたいこと|確認すべき7項目 で詳しく紹介しています。
賃料だけでなく初期費用や工事費まで確認する
お客様から「賃料は30万円までです」と言われることがあります。ただ、事務所・店舗では、月額賃料だけで予算を考えることはできません。
例えば店舗であれば、敷金・保証金、礼金、仲介手数料、保証会社、内装工事費、設備工事費、看板工事、引越し費用などが発生します。特に店舗の場合、賃料としては予算内でも、初期費用や工事費を含めると資金計画を超えてしまうことがあります。
そのため、「月額賃料はいくらまでですか?」だけでなく、「今回の出店・移転全体では、どのくらいの予算を考えていますか?」と聞くようにしています。
初期費用を抑えたい理由も確認する
例えば、「敷金はできるだけ少ない物件がいい」という希望があった場合も、理由を聞きます。手元資金を内装へ回したいのか、借入額との関係なのか、単純に初期費用を抑えたいだけなのか。
理由が分かれば、敷金が多少高くても内装費を抑えられる居抜き物件を提案するなど、別の考え方ができます。賃料、初期費用、工事費を別々に見るのではなく、出店・移転全体でどこにお金を使うのかまで確認した方が、物件を提案しやすくなります。
入居時期から、契約・工事のスケジュールを逆算する
希望入居時期も、単に「〇月までに入りたい」だけではなく、理由まで聞きます。
例えば事務所移転なら、現在の事務所の解約予告、契約満了日、原状回復工事、引越し、内装工事との関係があります。店舗なら、オープン予定日、内装工事期間、保健所や消防などの手続き、採用開始時期、広告開始時期などから逆算する必要があります。
「3か月後にオープンしたい」と言われても、物件を決めてから内装工事や各種手続きが必要であれば、すぐに物件を決めなければ間に合わない場合があります。逆に、半年後まで入居できないのであれば、現在募集中の物件を貸主がそこまで待ってくれるとは限りません。
そのため、いつまでに入居したいかだけではなく、なぜその時期なのかまで確認し、契約・工事・引越しのスケジュールを逆算しておきます。なお、法人の場合は最終決裁者も確認しておきます。決裁権の見極め方は 事務所仲介のヒアリングで聞くべきこと で詳しく紹介しています。
条件を3つに分けてから物件を探す
ここまで聞いたら、私は希望条件をすべて同じ重さでは扱いません。大きく3つに分けます。
絶対に外せない条件
- 飲食店なので排気が必要
- 10台分の駐車場が必要
- 予算上、月額30万円を超えられない
- 従業員数から最低20坪必要
この条件を満たさなければ、基本的には紹介対象から外れます。
できれば叶えたい条件
- 駅徒歩5分以内
- 1階
- 築浅
- 看板が大きく出せる
満たせれば理想ですが、それ以外の条件が良ければ検討できるものです。
他の条件で代替できるもの
例えば、「1階が理想だが、エレベーターがあり視認性が良ければ2階でも検討できる」「20坪希望だが、レイアウトが良ければ17坪でもよい」「駅徒歩5分希望だが、駐車場が確保できれば徒歩10分でもよい」といった条件です。
ここまで整理してから物件を探すと、検索結果に出てきた物件をただ送るのではなく、「この物件は駅から7分ですが、希望されていた来客動線は確保できそうなのでご提案しました」と、提案理由を説明できるようになります。
私は、物件を探す前のヒアリングは、条件を集めるためだけではなく、どこまで条件を広げて提案できるかを整理するための時間だと考えています。
物件探し前のヒアリングについてよくある質問
お客様自身も希望条件が決まっていない場合はどうしますか?
現在の事務所・店舗について聞くところから始めます。「現在どこに困っているか」「次の物件では何を改善したいか」を聞くと、条件を整理しやすくなります。
店舗の設備について分からないことを聞かれたらどうしますか?
その場で判断できない内容は断定しません。管理会社、内装会社、建築士、行政など、確認する相手を整理してから回答します。
賃料以外の予算は、どこまで具体的に聞きますか?
敷金・礼金・仲介手数料に加えて、内装工事費や看板工事、引越し費用まで含めた全体の予算感を聞くようにしています。金額が決まっていなくても、優先して使いたい費目を聞くだけで提案の幅が変わります。
希望条件に合う物件がまったくない場合はどうしますか?
どの条件が絶対条件で、どの条件なら広げられるかをもう一度確認します。エリア、坪数、階数、賃料などをすべて同時に広げるのではなく、優先順位の低い条件から調整します。
ヒアリングした条件は途中で変わることがありますか?
あります。実際に物件を見ることで、「思ったより15坪でも足りる」「駅距離より駐車場の方が大事だった」など、優先順位が変わることがあります。そのため、最初の条件を固定せず、案内後にも条件を確認し直します。
物件を探す前のヒアリングで、その後の提案が変わる
事務所・店舗探しの相談を受けたとき、最初から物件検索へ進む必要はありません。私は、その物件をどう使うのか、賃料以外にどの程度の予算があるのか、いつまでに、なぜその時期までに決める必要があるのか、何が絶対条件で何なら調整できるのかを確認してから物件を探します。
同じ「20坪・30万円・駅徒歩5分」という条件でも、その理由が分かれば提案できる物件は変わります。条件どおりの物件を探すだけではなく、お客様が今回の移転や出店で何を解決したいのかを整理する。そこまでできて初めて、物件提案の準備が整うと考えています。
相談はあるのに提案・案内へ進まないなど、案件獲得全体でどこが止まっているかを見直す方法は 不動産開業後に集客できないとき|案件獲得に向けて見直す3つのポイント で紹介しています。
賃貸仲介の伴走支援 では、事務所・店舗の相談を受けた際のヒアリング内容や、そこからどのように物件提案へつなげるかについても、案件ごとに一緒に整理しています。
事務所・店舗の相談を受けたものの、何を聞けばいいか迷っている方へ
「住宅仲介の経験はあるが、店舗のヒアリング項目が分からない」 「条件を聞いて物件を送っているが、なかなか案内につながらない」 という方は、現在の案件状況をお聞かせください。 初回のご相談は無料です。

