この記事の要点
店舗物件では、空調や厨房設備が残っていても、それをそのまま使えるとは限りません。特に残置物として引き渡される設備は、故障時の修理・交換だけでなく、不要になった際の撤去まで借主負担となる契約も多くあります。私が店舗仲介をする際は、契約前に設備と残置物の区分を確認し、空調や厨房設備を実際に動かしたうえで、内装業者にも現地を見てもらいます。「使える設備が残っているから初期費用を抑えられる」と判断するのではなく、撤去・交換・追加工事まで含めて出店費用を確認するようにしています。
店舗物件を案内していると、「エアコンが付いているので、そのまま使えそうですね」「厨房設備がこれだけ残っていれば、居抜きで安く出店できそうです」という話になることがあります。もちろん、そのまま使えるのであれば大きなメリットです。ただ、店舗仲介では、設備が残っていることと、その設備を問題なく使い続けられることは別に考えた方がよいと感じています。
私は2015年から不動産仲介に携わり、事務所・店舗の仲介を中心に経験してきました。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。 その中でも、契約後に認識がずれやすいのが空調と厨房設備です。
設備が貸主設備か残置物かを区分する考え方自体は、 事業用賃貸借契約書で確認すべきポイント 店舗・オフィス仲介で見落としやすい項目 で紹介しました。今回は、その区分そのものではなく、その先にある「修理・交換・撤去を誰が負担するのか」という店舗仲介の進め方について紹介します。
この記事で紹介すること
- 空調で契約後に揉めやすい理由
- 居抜き店舗で厨房設備をそのまま使えるとは限らない理由
- 残置物の修理・交換・撤去費をどう考えるか
- 契約前に内装業者へ確認してもらう内容
- 契約書へ詳しく書いてもらえない場合に仲介会社ができること
空調は「動いているから大丈夫」と判断しない
店舗物件で特に注意したいのが空調です。私が扱ってきた店舗物件では、既存の空調を残置物として引き渡すケースが多くあります。内見時に少し空調を動かして、「冷たい風も出ているから問題なさそうですね」となることがあります。しかし、実際にはそれだけでは分かりません。
契約後に内装をきれいに仕上げてから、改めて空調を使ってみると、「臭いが気になる」「かなり古く見える」「店舗の内装に合わない」「営業中に使い続けるには不安がある」と感じることがあります。そこで初めて、「やはり空調を新しくしたい」という話になります。
ところが、業務用空調の交換は簡単な工事ではありません。機種や設置状況によっては、想定以上の費用がかかります。その段階になって借主から、「最初から付いていた設備なので、貸主側で交換してもらえませんか」と言われることもあります。しかし、契約上その空調が残置物で、修理・交換を借主負担としているのであれば、貸主側としては、「残置物として引き渡しているので、交換するのであれば借主負担です」という話になります。この認識のずれを契約後に解消するのは簡単ではありません。
そのため私は、残置物の空調については、契約前に実際に運転してもらいます。冷暖房が効くかだけではなく、異音や臭い、古さなども確認してもらい、この空調をそのまま使うのか、それとも交換する可能性があるのかまで考えてもらいます。
同じ種類の設備でも扱いが分かれている具体的なケースは、 住宅仲介をしながら店舗の相談を受けたときに気をつけたいこと|確認すべき7項目 でも紹介しています。
居抜き店舗は「設備がたくさん残っているほど得」とは限らない
厨房設備も同じです。居抜き店舗を見ると、厨房機器やカウンター、排気設備などが残っているため、「これなら内装費をかなり抑えられそうだ」と感じることがあります。しかし、実際に内装業者がレイアウトを作ってみると、話が変わることがあります。
以前、既存の設備を活かして出店する予定だったものの、実際に希望するレイアウトを当てはめてみると、ほとんどの厨房設備を撤去しなければならない案件がありました。設備を撤去して搬出し、処分するだけでも費用がかかります。結果として撤去費用が想定以上となり、出店計画そのものを見直すことになりました。
さらに注意したいのが、厨房設備の所有関係です。店舗内に残っているからといって、すべてが前テナントの所有物とは限りません。実際に、厨房機器の中にリース契約中のものが残っていたケースもあります。そのため、「店内に置いてあるから、そのまま使えるだろう」と判断するのは危険です。契約前に、次のことを確認する必要があります。
- 誰の所有物なのか
- リース契約が残っていないか
- 撤去する場合は誰が負担するのか
排気ダクトは居抜きでも追加工事が必要になることがある
飲食店では、厨房機器だけでなく排気設備も確認します。以前のテナントでは、近くの通路側まで排気ダクトを出す形で営業できていた物件でも、次に入る飲食店の業態によっては同じ設備をそのまま使えるとは限りません。臭いの強い料理を扱う場合などには、周辺への影響を考えて、排気ダクトを屋上まで延ばす必要が出ることがあります。
そうなると、「居抜きだから厨房設備をそのまま使える」という前提が大きく変わります。ダクトを屋上まで持っていく工事となれば、相応の費用がかかります。このようなことは、物件を見ただけではなかなか判断できません。だからこそ店舗仲介では、契約前に内装業者へ現地を確認してもらう必要があります。
残置物なら修理だけでなく交換・撤去まで確認する
私が扱ってきた店舗物件では、残置物について、修理・交換・撤去を借主負担とする条件が多くあります。ここで注意したいのが、「修理費」だけを確認して終わらないことです。例えば残置物の空調が故障した場合、「修理費は借主負担」というところまでは理解していても、次のことまで決まっていないことがあります。
- 修理できず交換が必要になった場合はどうするのか
- 壊れた空調を撤去するときの費用は誰が出すのか
- 退去するとき、新しく設置した空調は残してよいのか
そのため、私が契約内容を確認するときは、修理・交換・撤去を分けて考えます。私が契約書の作成や条件調整に関われる場合は、残置物一覧を作成するか、契約書や特約に設備の名称を具体的に記載します。必要に応じて、別紙として写真を付けることもあります。一方、客付側として仲介する場合は、貸主側へ設備・残置物の区分や写真の添付をできるだけ明確にしてもらうよう要望します。「空調設備一式」とだけ書くより、どの空調なのか、何台あるのか、どの厨房機器なのか、写真でも確認できる状態にしておいた方が、後から認識がずれにくくなります。
同じ空調でも「貸主設備」なら扱いは変わる
一方、店舗物件でも、トイレや空調を貸主設備として扱う物件があります。その場合は、残置物とは負担の考え方が変わります。私が契約内容を整理するときは、貸主設備について、次の内容を確認します。
- 原則として修理費は貸主負担
- 修理で対応するか交換するかは貸主が判断する
- 借主の故意・過失による故障は借主負担
- 借主が勝手に設備を交換しない
ここで大切なのは、「空調だから貸主負担」「厨房設備だから借主負担」と設備の種類だけで決めないことです。同じ空調でも、ある物件では貸主設備、別の物件では残置物ということがあります。どちらの扱いなのかを区分する考え方は、 事業用賃貸借契約書で確認すべきポイント でも紹介しているので、ここでは、区分した後の修理・交換・撤去の負担の違いに絞って紹介しています。
居抜き物件では契約前に撤去したいものを決めておく
居抜き物件では、既存の設備や造作をそのまま残した状態で引き渡すことが多くあります。私が扱ってきた案件でも、店内にあるものを残置物として引き渡し、不要なものは借主負担で撤去する条件が多くありました。そのため、「これは使わないから、契約後に貸主へ撤去してもらおう」と考えるのは危険です。
撤去してほしい設備があるのであれば、契約前に交渉する必要があります。次の内容を決めたうえで契約します。
- 貸主が撤去するのか
- 借主が撤去するのか
- 一部だけ貸主に対応してもらうのか
そして、もっと大切なのが、契約前に内装費を確認することです。私は店舗物件の場合、基本的には申込みと同じタイミングで内装業者にも現地を見てもらいます。確認してもらうのは、例えば次のような内容です。
- 空調を実際に運転する
- 異音や臭いを確認する
- 厨房機器の動作確認をする
- リース品が含まれていないか確認する
- ダクトや給排水の位置を確認する
- 希望する内装の見積りを取る
申込みをしてから契約までには限られた時間しかありません。その中で、「この設備を撤去するといくらかかるのか」「この場所に厨房を作れるのか」「排気ダクトを屋上まで持っていく必要があるのか」「空調を交換すると予算内に収まるのか」まで確認してもらいます。店舗物件では、賃料や敷金だけを見て出店費用を判断することはできません。契約前に、自分がやりたい店舗を作るための総額を把握しておく必要があります。
退去時に残すのか撤去するのかも物件によって違う
設備については、入居中の修理・交換だけでなく、退去時の扱いも確認します。例えば、残置物だった古い空調を借主が自費で新品へ交換したとします。その空調を退去時に残せるかどうかは、物件によって違います。
比較的新しいビルでは、スケルトン返しを求める契約も多くあります。その場合、新しく設置した設備であっても撤去しなければならないことがあります。一方、築年数が経っている物件では、貸主と協議したうえで設備をそのまま残して退去するケースもあります。そのため、「自分でお金を出して新しくした設備だから、退去時には残せるだろう」とは限りません。入居中だけでなく、退去時まで見据えて確認しておく必要があります。
契約書に詳しく書いてもらえないこともある
ここまで読むと、「それなら全部契約書に書けばよいのではないか」と思うかもしれません。私も、できるだけ設備や残置物の扱いを明記してもらうようにしています。例えば、「既存空調は残置物とし、修理・交換・撤去は借主負担とする」といった形で、負担を明確にしてもらうよう貸主側へ要望します。
ただ、客付側の仲介会社として入っている場合、こちらが要望しても、貸主側の契約書へ追記してもらえないことがあります。実際には、設備や残置物について、ここまで細かく書かれていない店舗の賃貸借契約書も多くあります。だからといって、「契約書に書いていないので分かりません」で終わらせるべきではないと考えています。
仲介会社として最低限、貸主設備なのか残置物なのかは確認します。そのうえで、次のようなリスクを借主へ説明します。
- この部分は契約書上、負担がはっきりしていません
- 故障した場合、借主側で費用が発生する可能性があります
- この設備を撤去するのであれば、追加費用がかかります
契約書への追記を求めることは必要です。ただ、追記してもらえなかった場合には、書いていないこと自体がどのようなリスクになるのかまで伝えることが客付仲介会社の役割だと私は考えています。
仲介会社の役割は、物件の良いところだけを伝えることではない
店舗仲介では、「この物件なら出店できます」と話を進めること自体は難しくありません。しかし、本当に確認しなければならないのは、その後です。
- 空調を交換する必要はないか
- 厨房設備はそのまま使えるのか
- 不要な残置物の撤去費はいくらか
- 給排水や排気設備は希望する業態に対応できるか
- 退去時にはどこまで撤去する必要があるのか
こうしたことまで確認すると、最初に想定していた内装費では収まらないこともあります。場合によっては、借主自身が「この物件はやめた方がよい」と判断することもあります。私は、そうした判断ができるように、物件のメリットだけを伝えて契約してもらうのではなく、この物件にはどんなメリットがあり、どんな費用・リスクが考えられるのかを理解してもらったうえで契約してもらうことが、仲介会社の役割だと考えています。
残置物の修理・撤去負担についてよくある質問
残置物の空調が契約直後に壊れた場合、貸主に修理してもらえますか?
契約内容によります。私が扱ってきた店舗物件では、残置物として引き渡す設備については、契約直後であっても修理・交換を借主負担とする条件が多くあります。そのため、契約前に残置物か貸主設備かを確認し、費用負担も確認しておく必要があります。
居抜き物件の設備は、そのまま使えると考えてよいですか?
そのまま使えるとは限りません。動作確認だけでなく、希望するレイアウトに合うか、所有関係に問題がないか、撤去や移設が必要にならないかまで確認した方がよいです。内装業者にも現地を見てもらい、契約前に見積りを取ることを勧めます。
不要な残置物は貸主に撤去してもらえますか?
物件や契約条件によります。居抜き物件では現状のまま引き渡し、不要な設備の撤去を借主負担とするケースもあります。貸主に撤去してほしい設備がある場合は、契約後ではなく契約前に交渉した方がよいです。
残置物は契約書にどこまで書いておくべきですか?
可能であれば、残置物の名称を明記するか、一覧表を作成します。契約書の作成・調整に関われる場合は、必要に応じて写真も別紙として添付します。さらに、修理・交換・撤去をどちらが負担するかまで確認しておくと、後の認識違いを減らしやすくなります。
契約書に詳しく追記してもらえない場合はどうすればよいですか?
客付側から要望しても、貸主側の契約書を変更してもらえないことはあります。その場合は、設備区分や費用負担が不明確であること自体を借主へ説明し、そのリスクを理解したうえで契約するか判断してもらうことが必要です。
残置物は「あるか」ではなく「いくらかかるか」まで確認する
店舗仲介で残置物を見るときは、「設備が残っているか」だけを確認しても十分ではありません。確認したいのは、次の2点です。
- その設備を使い続ける場合にどんな費用がかかるのか
- 使わない場合に撤去・交換するためにいくらかかるのか
特に空調や厨房設備は、修理・交換・撤去の費用が大きくなることがあります。私は店舗物件を仲介する際、申込みと同じタイミングで内装業者にも現地を確認してもらい、契約前までに内装費の見通しを立ててもらうようにしています。
また、仲介会社としては、貸主設備と残置物の区分を確認したうえで、修理・交換・撤去をそれぞれ誰が負担するのかを分けて確認すること。そして、契約書に詳しく書かれていない部分についても、メリットとリスクの両方を借主へ説明することが必要だと考えています。
契約後に、「貸主が直してくれると思っていた」「こんなに撤去費がかかるとは思わなかった」とならないようにする。それが、店舗仲介で設備や残置物を確認する一番の目的です。
不動産賃貸仲介 伴走支援室 では、店舗仲介を始めたばかりの方に対して、物件探しや営業だけでなく、設備・残置物の確認方法や、契約前に内装業者へ何を確認してもらうかについても相談を受けています。「残置物の扱いをどう確認すればよいか分からない」「契約書に詳しく書かれていない部分の対応に不安がある」という場合は、実際の案件内容を確認しながら、一緒に整理することも可能です。
残置物・設備の負担の整理に不安がある方へ
「残置物の修理・撤去費を誰が負担するのか分からない」
「契約書に詳しく書かれていない部分の対応に不安がある」
という方は、実際の案件内容をお聞かせください。初回のご相談は無料です。

