この記事の要点
一人で不動産会社を開業すると、営業、物件探し、内見、契約対応まで自分で行うことになります。特に気をつけたいのは、目の前の案件に時間を使いすぎて、新規営業が止まってしまうことです。
私は、案件の優先順位をヒアリングで判断する、忙しい時期でも最低限の営業量を決める、時間のかかる仕事はカレンダーに入れる、分からないことを一人で抱え込まない、という考え方で一人開業の方を支援しています。
この記事では、主に事務所・店舗などの賃貸仲介を一人で始める場合を想定して、営業と案件対応をどう回していくか紹介します。
一人で不動産会社を開業すると、 「案件がないときは営業に集中できるけれど、案件が来ると営業する時間がなくなる」 という状態になることがあります。
私は2015年から不動産仲介に携わり、事務所・店舗を中心とした賃貸仲介を経験してきました。 現在は、不動産会社を開業した方や、既存事業から賃貸仲介へ参入する会社の立ち上げ支援も行っています。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。
一人開業の場合、営業担当と契約担当が分かれているわけではありません。顧客から相談が来れば、次のような対応を自分一人で行います。
- ヒアリングをする
- 物件を探す
- 管理会社へ問い合わせる
- 内見する
- 申込みを受ける
- 契約書を確認する
その間にも、新しい営業を続けなければなりません。そのため、単純に「忙しく働く」のではなく、どの案件へ時間を使うのか、営業をどこまで続けるのか、分からない業務をどう処理するのかを決めておく必要があります。
開業前の準備については、 未経験で不動産会社を開業する前に|営業と賃貸仲介で準備しておきたいこと でも紹介しています。
すでに開業して案件獲得そのものに悩んでいる場合は、 不動産開業後に集客できないとき|案件獲得に向けて見直す3つのポイント も参考にしてください。
この記事で紹介すること
- 一人開業では案件ごとに優先順位をつける
- 優先順位はヒアリングで判断する
- 忙しくても新規営業をゼロにしない
- 事業用仲介では平日の時間を活用する
- 分からないところで一人で止まらない
- 作業時間をカレンダーに入れて案件を進める
- テンプレートやAIを使う仕事と、自分で確認する仕事を分ける
一人開業では、すべての案件を同じ優先度で扱わない
一人で開業した方を見ていると、意外と早い段階から店舗などの相談が入ることがあります。案件が来ること自体は良いことですが、ここで注意したいのが、相談が来た案件をすべて同じ優先順位で進めてしまうことです。
例えば、小規模な店舗探しであれば、一見するとそれほど時間がかからないように見えるかもしれません。しかし、実際には次のような対応が必要になることがあります。
- 物件を探す
- 業種が可能か確認する
- 設備を確認する
- 内見を調整する
- 内装会社へ相談する
一件の案件へ想像以上に時間を使ってしまうこともあります。一人で営業している以上、すべての相談に同じスピードで対応することは難しくなります。
そのため、私はまずヒアリングをして、今すぐ時間を使う案件なのか、少し時間をかけながら対応する案件なのかを判断するようにしています。
案件の優先順位はヒアリングで判断する
優先順位を決めるとき、単純に「紹介された案件だから優先する」「店舗だから優先する」と決めるわけではありません。まず顧客の状況を聞きます。
例えば、私は次のような点を確認します。
- できるだけ早く開業したいのか
- すでにかなり物件を探しているが見つからず相談に来たのか
- まだ特定のエリアで出店できるか市場を調べている段階なのか
- 他の仲介会社にも依頼しているのか
- 紹介者から顧客本人へ直接つないでもらえているのか
- 紹介者を介していて、顧客本人の検討状況がまだ見えないのか
例えば、早期開業を予定していて、エリアや予算もある程度決まり、すでに物件を探している顧客であれば、具体的な提案へ進む可能性は高くなります。
一方で、「このエリアで良い物件があれば出店したい」という市場調査段階であれば、すぐに契約へ進む案件とは限りません。
もちろん、市場調査段階の相談を対応しないという意味ではありません。
ただ、一人で複数案件を抱えているのであれば、顧客の検討段階を把握したうえで、時間の使い方を変える必要があるということです。この判断をするためにも、最初のヒアリングは非常に大切です。
ヒアリングについては、 事務所仲介のヒアリングで聞くべきこと|条件より理由を掘る技術 でも詳しく紹介しています。
忙しいときでも、新規営業をゼロにしない
一人開業で起こりやすいのが、案件が入った途端に新規営業が止まることです。
例えば一件店舗案件が入り、次のような対応を続けていると、営業活動はどうしても後回しになります。
- 物件を探す
- 管理会社へ問い合わせる
- 内見をする
- 顧客へ連絡する
しかし、今対応している案件が永遠に続くわけではありません。契約になれば案件は終わりますし、途中で他社決定や計画中止になることもあります。
そのとき、新しい案件の入口がなければ、また案件がない状態に戻ります。また、営業活動をしばらく止めてしまうと、再び飛び込みや訪問を始めること自体が億劫になってくることもあります。
そのため、一人で開業するのであれば、「忙しい週でも、新規営業は最低何件行う」という下限を自分で決めておく方法をおすすめしています。
何件が適切かは、その人の営業方法や案件数によって変わります。大切なのは、10件なのか20件なのかという数字そのものではなく、案件が増えても営業活動をゼロにしないことです。
不動産業で独立した以上、一定の営業活動を継続する必要があります。目の前の案件を進めながら、次の案件につながる行動も残しておくことが、一人開業では特に大切だと感じています。
人脈を活かせていなかったり、経験の浅い案件を一人で抱えてしまったりすることも、活動が止まりやすい原因になります。
こうした開業初期につまずきやすい共通点は 賃貸仲介の開業でつまずきやすい4つの共通点|案件獲得と経験不足で失敗しないために で、案件がまだ少ない時期に活動そのものが止まってしまう理由として紹介しています。
本記事で扱うのは、その逆で、案件が増えて忙しくなったことで営業が止まるパターンです。
行動量そのものを目的にしないという考え方は 地方で賃貸仲介を始めても案件が来ない|最初の3か月で追いたいKPIと行動量 で、立ち上げ直後の行動量の目安として紹介しました。
本記事では、同じ考え方を、案件を抱えている状態での営業量の下限として使っています。
事務所・店舗仲介では平日の時間を活用する
一人で開業すると、「土日も営業した方がいいのではないか」と考える方もいると思います。住宅仲介であれば、土日の内見対応が多い場合もあります。
一方、私が扱ってきた事務所・店舗などの事業用仲介では、元付会社や管理会社が土日祝日を休みにしていることも多くあります。
そのため、物件確認や内見調整、貸主への条件確認などを進めようと思っても、相手方が休みで進まないことがあります。
事業用仲介を中心にするのであれば、私は平日に営業と案件対応を集中させることを勧めています。
ただし、「月曜日の午前は営業」「午後は案件対応」という時間割まで一律に決める必要はないと思っています。
既存人脈が多い人もいれば、新規営業を中心にする人もいます。案件数も人によって異なります。
そのため、曜日や時間を固定するよりも、今週は最低何件営業するのか、今動いている案件で何を終わらせるのかを決めておく方が現実的です。
未経験なら、分からないところで一人で止まらない
一人開業の場合、未経験であればいくつもの場面で手が止まります。
例えば、次のような場面で判断に迷うことがあります。
- 契約書が届いたとき:「特約がたくさん書いてあるけれど、顧客にとって不利な内容はないのか」
- 物件探しで:「インターネットでは募集されているのに、ATBBやレインズでは物件情報が見つからない」
- 店舗の案件で:「この設備で本当に出店できるのか確認したいが、相談できる内装会社がいない」
- 手続きの場面で:「宅建業法上、この手続きや説明方法で問題ないのか」
完全未経験であれば、ヒアリング、物件探し、申込み、契約、法務、内装など、どの部分でも手が止まる可能性があります。
そのたびに何時間も一人で調べ続けていると、一件の案件に非常に多くの時間を使います。
そのため、慣れるまでは、分からない内容を一人で抱え込まず、その分野に詳しい人へ聞くことをおすすめしています。
一人で会社を経営することと、すべてを一人で判断することは別です。賃貸仲介経験者、内装会社、士業など、それぞれ相談できる相手を作っておくことで、一人でも案件を進めやすくなります。
身近に賃貸仲介を相談できる方がいない場合は、 不動産賃貸仲介 伴走支援室 でも、実際の案件を進めながら相談を受けています。
複数案件が動いたら、作業時間をカレンダーに入れる
一人で複数案件を担当するようになると、「やらなければいけないことを覚えている」だけでは、だんだん回らなくなります。
例えば、一件の物件を探している途中に別の顧客から連絡が入り、次のような仕事が重なって入ることがあります。
- 「この契約書を今日確認してほしい」
- 「管理会社へ確認してほしい」
- 「内見日を調整してほしい」
そのたびに作業を切り替えていると、最初にやっていた仕事が進まなくなります。
私は、まず優先順位を判断したうえで、5分程度で終わりそうなことであれば、その場で処理することがあります。
一方、5分以上かかりそうな仕事は、「あとでやろう」で終わらせません。
例えば、次のように実際に作業する時間をカレンダーへ入れます。
- 15時から契約書を確認する
- 16時から物件を探す
- 翌日の10時に管理会社へまとめて連絡する
一人で仕事をしていると、予定されていない仕事だけで一日が終わってしまうことがあります。
そのため、何をするかだけでなく、いつやるかまで決める。これだけでも、複数案件を進めやすくなります。
ヒアリングはテンプレート化して、数か月後でも確認できるようにする
一人で案件を増やしていくのであれば、毎回ゼロから仕事をする必要はありません。特にテンプレート化しておきたいのが、ヒアリング項目です。
案件を受けた直後は、「この顧客は駅から5分以内を希望している」「駐車場が必要だった」「○月までに入居したいと言っていた」と覚えていると思います。
しかし、数か月後まで物件が決まらなければ、細かい内容は忘れていきます。
そのため、ヒアリング項目はある程度決めて、次のような内容を記録しておくと、その後の提案もしやすくなります。
- 希望エリア
- 予算
- 面積
- 入居・開業時期
- 用途
- 必要設備
- 絶対に外せない条件
- できれば叶えたい条件
- 条件が必要な理由
事務所・店舗の物件を探す前に確認すること|用途・予算・入居時期・条件整理 でも、物件探し前の条件整理について紹介しています。
AIで効率化する部分と、自分で確認する部分を分ける
一人で不動産会社を運営するのであれば、使えるツールは使った方がよいと思います。
例えば、ATBBやレインズ以外の一般公開されている物件情報について、AIを使って候補を整理する方法もあります。
エリア、面積、賃料などの条件をもとに公開情報から候補を整理できれば、物件探しにかかる時間を短縮できる場合があります。
ただし、AIが見つけた物件については、募集が終了していたり、掲載条件が更新されていたりする可能性があります。
そのため、最終的な募集状況や条件については、元付会社や管理会社へ確認する必要があります。
また、AIを使ってよい作業と、人が必ず確認した方がよい作業も分けています。
特に、申込書や契約書の確認は、最終的に自分たちの目で行う必要があると考えています。
例えば、次のような内容です。
- 申込条件が正しく反映されているか
- 交渉した条件と契約書の内容が一致しているか
- 特約に顧客へ大きな負担となる内容がないか
- 事前に説明していない条件が追加されていないか
こうした内容は、仲介会社として確認しておきたい部分です。AIは情報整理や確認作業の補助には使えます。
ただ、契約に関する最終判断までAIへ任せるのではなく、人が責任を持って確認するという線引きは必要です。
一人で不動産会社を開業するときによくある質問
一人で何件くらいの案件を同時に担当できますか?
一律には決めにくいですが、目安として、慣れてくれば25件前後までは同時に対応できることが多いです。
ただし、店舗案件と一般的な事務所移転では確認内容も違いますし、物件探しの段階なのか契約直前なのかによっても負担が変わります。件数だけで判断するより、それぞれの案件がどの段階にあり、次に何をする必要があるのかを把握する方が大切です。
案件が忙しいときは、新規営業を止めてもいいですか?
一時的に営業量を減らすことはあっても、私はゼロにしない方がよいと考えています。
件数そのものより、今の案件対応に支障が出ない範囲で無理なく続けられる数を先に決めておくことが大切です。最初から多めの件数を決めてしまうと、結局守れずにやめてしまうことがあります。
事業用仲介でも土日に営業した方がいいですか?
住宅仲介とは動き方が異なる場合があります。私が扱ってきた事務所・店舗仲介では、管理会社や事業用仲介会社が土日祝日に休んでいることも多いため、平日に物件確認、営業、内見などを集中させる方が進めやすいと感じています。
分からないことがあるたびに相談してもいいのでしょうか?
未経験のうちは、むしろ一人で長時間悩み続けるより、経験者へ確認した方が早いことがあります。
特に契約、設備、法務など、自分だけで判断することに不安がある内容は、経験者や適切な専門家へ相談できる体制を作っておいた方がよいと思います。 不動産賃貸仲介 伴走支援室 では、分からないことがあるたびに相談していただける体制にしています。
AIを使えば一人でも賃貸仲介を効率化できますか?
情報整理、文章作成、一般公開されている物件情報の候補整理など、AIを使える部分はあります。
一方で、申込書、契約書、特約、交渉した条件などは、最終的に仲介担当者自身が確認する必要があります。AIに任せる仕事と、自分で責任を持って確認する仕事を分けることが大切です。
一人で開業するなら「営業を止めない仕組み」を作る
一人で不動産会社を開業すると、営業から契約まで自分で対応することになります。案件がないときは営業できます。
しかし、案件が入ると目の前の顧客対応に時間を使い、新規営業が止まりやすくなります。そして、その案件が終わったときに、また新しい案件がない状態になる。
この繰り返しをできるだけ避けるためには、次のような仕組みを作っておくことが大切です。
- 案件ごとに優先順位をつける
- 忙しくても最低限の新規営業を続ける
- 時間のかかる仕事はカレンダーへ入れる
- 分からない内容は一人で抱え込まない
- テンプレートやAIを使えるところは効率化する
一人で会社を経営するからといって、すべてを一人で考え、すべてを一人で処理する必要はありません。
むしろ、営業に使う時間を確保するためにも、自分で行う仕事と、経験者や協力会社へ相談する仕事を分けた方がよいと思います。全部を自分の頭の中だけで管理しないことが、一人開業を続けるうえでの土台になります。
不動産賃貸仲介 伴走支援室 では、営業活動の整理から実際の賃貸仲介案件まで伴走して支援しています。現在の案件状況や営業方法を伺いながら、どこに時間を使い、何を優先するのか一緒に整理します。
一人開業の営業と案件対応で悩んでいる方へ
「一人で開業したが、営業と案件対応の両立ができない」
「案件が増えると何から対応すればいいか分からなくなる」
「契約や店舗案件で判断に迷ったときに相談できる人がいない」
という方は、現在の案件状況や営業方法をお聞かせください。初回のご相談は無料です。

