この記事の要点
不動産会社を開業したものの案件がないとき、すぐに広告やSNSを増やすのではなく、まず現在の営業状況を分けて考えます。この記事では、開業後に賃貸仲介、特に事務所・店舗仲介の案件獲得に悩んでいる方へ、「顧客へ紹介できる物件があるか」「顧客との接点を作れているか」「相談後の提案が進んでいるか」という3つの観点から見直す方法を紹介します。複数に当てはまる場合もあります。数字だけでなく「なぜそこで止まったのか」まで確認すると、次に取り組むべき行動を決めやすくなります。
不動産会社を開業した方から、「開業したものの、なかなか案件がありません」「ホームページを作ったのですが、問い合わせが来ません」「営業はしているのですが、契約につながりません」と相談を受けることがあります。
私は2015年から不動産仲介に携わり、オフィス専門の仲介会社で事務所・店舗仲介を中心に経験してきました。 現在は独立し、賃貸仲介へ参入する会社の立ち上げや案件の進め方を支援しています。 これまでの経歴は プロフィール にまとめています。
案件がないと、「もっと集客しなければ」「広告を出した方がいいのでは」「SNSを始めた方がいいのでは」と、新しい集客方法を探したくなります。ただ、実際に状況を聞いてみると、原因が集客だけではないことがあります。
例えば、問い合わせが来ても紹介できる物件がほとんどなければ提案は進みません。一方で、紹介できる物件は十分あるのに、既存顧客や見込み客との接点をほとんど作れていない会社もあります。相談は来ていても、物件資料を送ったところで止まっているのであれば、ヒアリングや提案方法を見直した方がよい場合もあります。
この記事では、「案件がない」という状態を、物件・顧客との接点・提案の進め方という3つの観点から整理します。開業後につまずきやすい行動そのものについては、 賃貸仲介の開業でつまずきやすい4つの共通点|案件獲得と経験不足で失敗しないために で別に紹介しています。
この記事で紹介すること
- 「案件がない」を一括りにしない
- 紹介できる物件がない場合に確認すること
- 反響・相談がない場合に確認すること
- 相談はあるが提案・案内へ進まない場合に確認すること
- 数字だけでなく、止まった理由も記録する
- 状況を整理したら次の行動を一つ決める
「案件がない」を一括りにしない
開業後に案件がないと、「集客ができていない」と考えがちです。ただ、私はまず次の3つを分けて確認します。
顧客へ紹介できる物件があるか
相談を受けたとしても、希望条件に合う物件をほとんど提案できなければ、案件は前に進みません。特に地方の店舗・事務所では、ATBBやレインズを確認しても流通物件が少ない地域があります。物件情報自体はあっても、業種、賃料、広さ、設備などが合わず、実際には紹介できる物件がない場合もあります。
顧客との接点を作れているか
紹介できる物件があっても、その物件を必要としている人との接点がなければ案件にはなりません。ホームページを作っただけになっていないか。既存顧客へ賃貸仲介を始めたことを伝えたか。紹介してもらえそうな取引先へ声を掛けたか。ここを確認します。
相談後の提案が進んでいるか
問い合わせや相談は来ているものの、「物件を何件か送って終わっている」「資料を送っているが内見にならない」という状態もあります。この場合は、集客量だけではなく、そもそも自社が対応したい顧客から相談が来ているのか、その後のヒアリングや提案方法に改善できるところがないかを見ます。
この3つは一つだけに当てはまるとは限りません。紹介できる物件も少なく、顧客との接点も少ない会社もあります。そのため、どれか一つに決めつけるのではなく、現在の状況をそれぞれ確認することから始めます。
紹介できる物件がないなら、物件情報と紹介ルートを見直す
最初に確認したいのが、顧客から相談を受けたときに実際に紹介できる物件があるかです。ここでいう「物件がある」とは、自社で媒介を取得している物件があるという意味だけではありません。顧客を先に獲得して物件を紹介する方法であれば、他社が募集している物件でも、紹介可能で条件が合えば提案できます。
そのため、次を確認します。
- ATBBやレインズに対象となる物件があるか
- 他社募集物件を紹介できる状態か
- 希望する業種で使用できるか
- 募集条件が顧客の予算に合っているか
- 顧客の希望条件が厳しすぎないか
例えば、「1階、30坪前後、駅徒歩5分以内、駐車場5台、賃料30万円以内」という希望だったとします。該当物件が一件もなければ、「この地域には物件がありません」で終わらせるのではなく、「1階は絶対条件なのか」「駅から7分なら検討できるか」「駐車場を近隣で確保できれば問題ないか」と、条件を整理する必要があります。
一方で、条件を広げても紹介できる物件がほとんどない地域もあります。その場合は、現地で空いている店舗や事務所を探し、貸主へ接触して募集を任せてもらう方法も選択肢になります。ただし、開業したからといって、必ず最初から自社媒介物件を増やさなければならないわけではありません。
重要なのは、自社で募集している物件があるかではなく、目の前の顧客に提案できる物件情報へアクセスできているかです。 地方で賃貸仲介を立ち上げる方法|「媒介獲得型」と「顧客獲得型」、どちらから始めるか では、顧客を先に獲得する方法と、貸主から募集物件を獲得する方法の違いについて詳しく紹介しています。
反響・相談がないなら、顧客との接点を確認する
次に、相談そのものが来ていない場合です。ここでは単純に、「人脈がありますか」と確認するだけでは足りません。私が確認したいのは、誰に、どのような内容を、実際に伝えたのかです。
例えば、過去の取引先が100社あったとしても、不動産仲介を始めたことを伝えたのが5社だけであれば、「既存顧客から案件が出ない」と判断するのはまだ早いと思います。また、「不動産を始めました」だけ伝えるのと、「住宅だけでなく、事務所の移転や店舗の出店、2号店探しなども対応できます」と伝えるのでは、相手が思い出す相談も変わります。
私が立ち上げ支援をするときは、接点を一度整理します。
- 過去の取引先
- 既存顧客
- 士業
- 内装会社・工事会社・管理会社
- 同業の不動産会社
- 貸主
- 経営者の知人
ただし、一覧を作ることが目的ではありません。その中で、誰に連絡したか、何を伝えたか、どのような反応だったかまで確認します。
既存顧客への訪問については、私が支援する際に週10件から15件程度を一つの行動目安に設定することがあります。これは、すべての不動産会社に週10件から15件必要という意味ではありません。既存顧客数、人員、営業エリアによって変わります。見るべきなのは数字そのものより、十分な顧客接点を作ったうえで相談が出ていないのかです。
開業直後の営業活動をどう設定するかについては、 地方で賃貸仲介を始めても案件が来ない|最初の3か月で追いたいKPIと行動量 で詳しく紹介しています。
相談は来るが提案・案内へ進まないなら、相談内容と提案方法を見直す
問い合わせや相談が来ているのに、物件提案や内見へ進まないケースもあります。まず確認したいのは、自社が対応したい顧客から相談が来ているかです。例えば、店舗・事務所仲介を増やしたい会社なのに、ホームページから来る相談が住宅購入ばかりなのであれば、ヒアリング方法だけの問題ではありません。サイトや営業時に誰を対象としているのかが伝わっているかも確認します。
一方で、対象としている顧客から相談が来ているのであれば、その後の進め方を見ます。
- 希望条件だけを聞いていないか
- なぜその条件が必要なのか確認したか
- 絶対条件と希望条件を整理したか
- 検索結果の物件を大量に送っていないか
- なぜその物件を選んだのか説明したか
- 提案後に一番近い物件を確認したか
- すべて見送りだった場合その理由を聞いたか
- 次に何をするのか決めているか
例えば、「20坪、賃料30万円、駅徒歩5分以内」という条件に当てはまる物件を10件送ったとしても、お客様自身がどれを見ればよいか分からない場合があります。一方で、「駅から7分ですが、希望されていた来客動線を確保しやすく、会議室も作れそうなので候補に入れました」と提案理由を添えれば、検索条件から少し外れていても検討してもらえることがあります。
用途・予算・入居時期をどう確認し、希望条件を整理するかについては、 事務所・店舗の物件を探す前に確認すること|用途・予算・入居時期・条件整理 で詳しく紹介しています。相談があるのに案内へ進まない場合は、集客数だけを増やすのではなく、相談を受けてから提案までのどこで顧客が止まったのかを確認します。
数字だけでなく「止まった理由」も記録する
営業活動を振り返るとき、件数だけを記録しても原因が分からないことがあります。例えば、「10組のお客様に物件を提案したが、内見に進んだお客様は0組だった」という数字だけでは、何を改善すればよいか判断できません。
その10組が内見に進まなかった理由が、
- 賃料が高かった
- 希望エリアと違った
- 必要な設備がなかった
- 顧客から返信がなくなった
- 他社で物件が決まった
- 入居時期が合わなかった
のでは、それぞれ次の行動が違います。
そのため、私は件数を見るのであれば、「なぜ止まったのか」も一緒に記録した方がよいと考えています。
- 紹介できる物件:確認する数字は提案可能物件数・物件情報の確認件数。あわせて、紹介できない理由や希望条件の厳しさを確認します。
- 顧客との接点:確認する数字は接触した顧客数・紹介依頼数・相談顧客数。あわせて、誰に何を伝え、どのような反応があったかを確認します。
- 提案の進め方:確認する数字は相談顧客数・提案した顧客数・内見に進んだ顧客数。あわせて、対象顧客との一致、見送り理由、次回連絡を確認します。
必要であれば、提案した物件数も別に記録します。例えば、一人のお客様へ20物件送っているのであれば、提案した顧客数は1組ですが、提案物件数は20件です。この2つを一緒にしてしまうと、「たくさん提案しているのに決まらない」と感じても、実際には接触している顧客そのものが少ない可能性があります。
KPIは、数字を多くすること自体が目的ではありません。現在の営業活動のどこに改善余地があるかを見つけるために使います。
状況を整理したら次の行動を一つ決める
現在の状況を整理したら、次に試す行動を決めます。
- 紹介できる物件が少ないのであれば、「今週は管理会社や同業者へ10件物件情報を確認する」と決める
- 顧客との接点が少ないのであれば、「過去の取引先へ今週10社訪問する」と決める
- 相談は来ているのに案内へ進まないのであれば、「今後は提案後に必ず見送り理由を確認する」と決める
ここで大切なのは、複数の施策を一度に増やしすぎないことです。ホームページを直し、SNSを始め、広告を出し、既存顧客へ営業し、貸主開拓も始める。すべてを同時にすると、どの行動から成果が出たのか分かりにくくなります。
私は、いつまでに、誰に、何をするかまで決めて、その反応を記録するようにしています。例えば、「10社訪問したうち、3社から具体的な相談が出た」のであれば、既存顧客への訪問を増やす判断ができます。反対に、「20社へ訪問したが、相談につながらない」のであれば、訪問数だけを見るのではなく、誰にどのような話をしたのかを確認します。
最初から正解を決めるのではなく、行動する、反応を見る、修正するという繰り返しで、その会社に合う案件獲得の方法を探します。
不動産開業後の集客・案件獲得についてよくある質問
開業したばかりですが、まず広告を出した方がいいですか?
広告が必要な場合もあります。ただ、最初に紹介できる物件、顧客との接点、相談後の提案状況を確認します。どこで止まっているかによっては、広告より先に取り組んだ方がよいことがあります。
ホームページを作ったのに問い合わせがありません。何を確認すればいいですか?
既存顧客や取引先へ仲介事業を始めたことをどの程度伝えているかも確認します。Web側では、サイトへの訪問自体が少ないのか、訪問はあるものの問い合わせにつながっていないのかも分けて考えます。訪問そのものが少ない場合と、一定数見られているのに相談されない場合では、見直す内容が異なります。
問い合わせはあるのに内見にならない場合はどうしますか?
まず、自社が対応したい顧客からの相談かを確認します。そのうえで、希望条件の理由や優先順位を整理できているか、提案した物件に理由を添えているか、見送り理由を確認できているかを見直します。
紹介できる物件が少ない場合はどうすればいいですか?
ATBBやレインズなどで紹介可能な物件を確認します。それでも地域の流通量が少ない場合は、貸主開拓も選択肢になります。ただし、必ず自社媒介物件を増やさなければならないわけではありません。顧客獲得型で進めるのか、媒介獲得型で進めるのかによって対応は変わります。
どれくらい活動してから営業方法を見直せばいいですか?
一律の件数では決めにくいです。件数だけではなく、誰に何を伝え、どのような反応があり、どこで止まったのかを確認します。少ない活動数だけで「この地域では案件が取れない」と判断せず、一定量の行動をしながら内容を修正することが必要だと考えています。
案件がないときは、まず3つの観点から現在地を確認する
不動産会社を開業したのに案件がない場合、私はまず、顧客へ紹介できる物件があるか、顧客との接点を作れているか、相談から提案・内見へ進んでいるかの3つを確認します。そのうえで、件数だけではなく、なぜそこで止まったのかまで振り返ります。
紹介できる物件が少ないのであれば、物件情報や紹介ルートを見直す。顧客との接点が少ないのであれば、誰に何を伝えるかを決めて行動する。相談は来ているのに進まないのであれば、相談内容と提案の進め方を確認する。現在地が分かれば、次に取り組むことも決めやすくなります。
未経験で開業する前にどこまで準備しておくべきかは 未経験で不動産会社を開業する前に|営業と賃貸仲介で準備しておきたいこと で紹介しています。反対に、相談や案件が増えてきたことで営業の時間が取れなくなってきた場合は、 一人で不動産会社を開業するときはどう動く?営業と賃貸仲介の案件対応を回す方法 も参考にしてください。
賃貸仲介の伴走支援 では、開業後の営業状況を確認し、紹介できる物件、顧客との接点、相談後の提案状況のどこから見直すべきかを一緒に整理しています。
開業後に案件がなく、どこから見直せばよいか迷っている方へ
紹介できる物件、顧客との接点、相談後の提案状況を伺い、 次に取り組むことを一緒に整理します。 初回のご相談は無料です。

